なぜ人気!? “でしゃばらない”日常系ギャグマンガ

マンガ

更新日:2012/11/13

 言うまでもなく、ギャグマンガは、マンガ界の一大ジャンルの一つだ。これまでも、『天才バカボン』や『伝染(うつ)るんです。』といった時代を象徴する傑作が生まれてきた。そして最近では『となりの関くん』や『犬神もっこす』など新進作家によるスマッシュヒットが次々と現れている。

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 その共通点は、“日常の小さな世界”を極限まで掘り下げていること。『ダ・ヴィンチ』12月号ではそんなギャグマンガの世界にスポットをあて、識者とともに人気の秘密を分析している。

 そもそもギャグマンガとは何か? 「リアリティの衝突」とマンガ評論家の伊藤剛は端的に説明する。
「“いかにもありそうなこと”と“絶対なさそうなこと”、その二つがセットで描かれる。人は“あるある”と言って笑い、“ありえない!”と言って笑うんです」

 その代表例が、主人公の授業中の遊びだけで話がほとんど完結している『となりの関くん』。同作は〝あるある”として授業中の遊び=日常を極限まで掘り下げる(ボケ倒す)ことで、 “ないない!”のツボを連打する。他に最近の作品であげるなら、主人公が所属するサークルで延々と禅問答のようなやり取りを繰り返す『犬神もっこす』や、日常生活の些細な一コマを抽出した『ポテン生活』も印象的だ。『KAPPEI』は、終末の戦士という“ないない!”設定の日常を掘り下げることで等身大のヒーローの“あるある”を実現している。

 独特のセンスが光るのが、ねこ集団の不可思議な動きだけを描く『ねこだらけ』だ。掲載誌『モーニング』編集長の島田英二郎は、「ギャグの因数分解。“笑い”を最小単位まで分解するとどんな表現になるか、という実験です。ギャグのヒッグス粒子を発見したいですね」と意欲的。倉持も「“こんなのもアリか!”と衝撃でした。何ともシュールでいつの間にか中毒に。今もなお意表をつくネタが続出で、すごいです!」と絶賛する。

 では、なぜ今“日常”“狭い世界”が重要視されるのか? 

 京都国際マンガミュージアム研究員の倉持佳代子は、最近の作品を“癒され日常ギャグ”と総評する。
「バブル崩壊以降、幸せの形は大きく変化しました。現代は、金銭的豊かさを求めるよりも自分の好きなことを貫きたい、と考える人たちが増えたように思います。日常のささやかなことに幸せを見出す、そういう価値観が笑いともリンクしているのではないでしょうか」

 さらに、ギャグマンガの変遷を辿りながら、1990年代のうすた京介の存在の大きさを強調する。

 「ギャグマンガという言葉が定着したのは70年代。赤塚不二夫の功績は大きく、パロディや自爆など、ギャグマンガにおけるすべての手法を試しています。80年代には吉田戦車の不条理ギャグなど、技巧派の笑いが登場しますが、90年代にそうした笑いを小学生にも分かりやすく描いたのがうすた京介でした。勢いや下ネタではなく、日常の中に突如現れる非日常のズレや、笑わせてからすぐ冷めるような会話のテンポが新鮮でした。当時、『週刊少年ジャンプ』は600万部を超え、クラスの生徒ほとんどが読んでいた時代でした。そんな中『すごいよ!! マサルさん』が始まった翌日は、クラス全員の笑いの基準が変わったような感覚がありましたね。そこで影響を受けた世代が、現在、気鋭のギャグマンガ家として活躍しています。実録ギャグや萌え系といった新しい要素も取り入れつつ、新たな笑いの形を生み出しています。“癒され日常ギャグ”もそうした流れから生まれたように思います」

取材・文=松井美緒
ダ・ヴィンチ12月号「コミック ダ・ヴィンチ」より)