未完の名作『サイボーグ009』がついに完結した理由

マンガ

更新日:2012/11/13

 仮面ライダーシリーズの生みの親として知られ、マンガの王様と呼ばれる巨匠、石ノ森章太郎。彼の代表作といえばもちろん『サイボーグ009』だ。しかし、ご存知の方も多いと思うが、この作品は、最終章に突入したまま、物語の進行がストップしている。そう、未完の作品なのである。

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 代表作であるとともに、ライフワークでもあった『サイボーグ009』を描ききれずにこの世を去ってしまった巨匠の無念は、いかばかりだっただろうか。

 だが、巨匠にとっても、ファンにとっても幸運なことに、そんな思いを引き継いでくれる人たちがいた。それは、息子であり劇作家・演出家の小野寺丈と、かつて巨匠のもとで腕を磨いた弟子たちである。

 巨匠が逝去してから14年。彼の遺した膨大な構想ノートと資料、そして小説原稿に基づいて、ついに『サイボーグ009』の完結編が世に出された。それが、『2012 009 conclusion GOD’S WAR -サイボーグ009完結編』(角川書店)だ。小野寺丈は全3巻の小説版を、弟子たちはコミカライズ版である『サイボーグ009 完結編 conclusion GOD’S WAR』(小学館)を担当している。

 また10月27日には「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズ、『精霊の守り人』、『東のエデン』の神山健治監督によるオリジナルストーリーで『009 RE:CYBORG』が公開、その関連本も多数出版されるなど、今009の注目度は最高潮に高まっている。                                                                        
 だがなぜ、“今”、009なのか。実は、巨匠、石ノ森章太郎が今年2012年を「闘いの年」といっていたそう。彼は古代マヤ人が2012年の冬至ごろに訪れると予想した人類滅亡に関する幾つかの仮説を受けて、人類にとって「闘いの年」になると考えていたのだ。スピ好きの間でもうひとつの終末論として近年話題を集めていた、いわゆる“アセンション”を巨匠も意識していたということだろうか。『2012 009 conclusion GOD’S WAR -サイボーグ009完結編』の世界の時間も2012年に設定されている。そのなかで009をはじめとしたサイボーグたちは最強の敵であり、人類を滅ぼそうと考えている「神」に闘いを挑むのである。そう、現実世界の時間軸と、過去に巨匠が想定していた作品の時間軸が交差しているのが“今”なのである。むしろ“今”だからこそ、009たちは活躍しているといえるのだ。
 
 実際、ヒーローなき現代を生きる我々に、009たちの生き様が教えてくれることは少なくない。
 
 009たちはサイボーグであり、人間になりきれない、機械にもなりきれないその体に苦悩している。しかし彼らは、そこで立ち止まらず、だれもが心安らかに暮らせる平和な世界を目指して立ち上がり、闘う。そこにあるのはまぎれもない“勇気”である。悩み、葛藤しながらも闘っていく“勇気”が009たちにはあるのだ。そして彼らは、その存在で、だれにでもその“勇気”があることを思い出させてくれるのである。

 『2012 009 conclusion GOD’S WAR -サイボーグ009完結編』ではこう書かれている。「誰が見ても、もはや虫の息と言わざるを得ない状況である。それでも……。それでも、みんな立ち上がろうとする。たとえ瀕死の状態でも、両足が無くなっても、彼等はそれでも立とうとするだろう。それが彼等だからだ。それが彼等の生き様だからだ」

 「闘いの年」にあり、闘う“勇気”を忘れてしまったのなら、『2012 009 conclusion GOD’S WAR -サイボーグ009完結編』に書かれた、彼らの生き様を見て、“勇気”があることを思い出そう。