ブッカー賞作家が書いた「フィリップ・マーロウ」シリーズ『黒い瞳のブロンド』
『黒い瞳のブロンド』(ベンジャミン・ブラック:著、小鷹信光:訳/早川書房)
村上春樹が新訳に挑戦し、新たな息吹を吹き込まれて話題となったレイモンド・チャンドラーの「私立探偵フィリップ・マーロウ」シリーズ。年末には村上訳で『高い窓』の刊行も予定されている。
この私立探偵小説の里程標というべきシリーズの“最新作”『黒い瞳のブロンド』(早川書房)が発売された。チャンドラーがこの世を去ってから55年、今回“新作”を手掛けたのはアイルランドの作家・ベンジャミン・ブラックである。ブラックはブッカー賞作家であるジョン・バンヴィルがミステリ小説を書く際の別名義だ。バンヴィルはこれまで『ダブリンで死んだ娘』(ランダムハウス講談社文庫)、『溺れる白鳥』(RHブックス・プラス文庫)が2冊のミステリ小説が邦訳されている。
夏のある火曜日の午後、フィリップ・マーロウの事務所をひとりの女が訪ねる。 女の名はクレア・キャヴェンディッシュ。ブロンドの髪に黒い瞳という、珍しい取り合わせの容姿を持つ女性だった。クレアは有名な香水会社の一族だという。
クレアの依頼は、かつての愛人だったニコ・…