人生に行き詰まった人たちが、縁のなかった科学的な世界に出会ったとき何が起こるのか? 『オオルリ流星群』 伊与原新の執筆の起点とは
行き詰まった人たちが、それまで縁のなかった科学的な世界に出会ったとき何が起こるのか。それを見てみましょう──。新田次郎文学賞受賞作『月まで三キロ』や、直木賞、本屋大賞候補作になった『八月の銀の雪』も、大学院で地球惑星科学を専攻し、研究の世界にずっと身を置いていた伊与原さんならではのそんな発想が執筆の起点になっているという。
(取材・文=河村道子 撮影=朝岡英輔)
「人生に行き詰まった人たちを書きたかったわけではないんです。さらにそんな気持ちになっている方に、この物語が癒やしになってほしいなんてこと、考えたこともないんです」 そんな伊与原さんのフラットさが構えることなく心を委ねられる物語を生み出しているのだろう。やりきれなさを抱えるとき、眺めた月が思いがけず心を静めてくれるように。月も海も星も、誰かの心を救いたくてそこにあるわけではない。 「『月まで三キロ』と『八月の銀の雪』では、科学的なものに触れて世界の見方が変わるということをコンセプトにその瞬間を切り取った短編を書いてきました。『それを長編でやってみませんか?』と言われ、物語のファクターを…