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吉澤嘉代子

職業・肩書き
タレント・その他
ふりがな
よしざわ・かよこ

プロフィール

最終更新 : 2018-06-08

シンガーソングライター

「吉澤嘉代子」のおすすめ記事・レビュー

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おすし大好き/【吉澤嘉代子 エッセー連載】ルシファーの手紙 #4

おすし大好き/【吉澤嘉代子 エッセー連載】ルシファーの手紙 #4

 鮨が好きだ。世界中の食べもので一番好きかもしれない。海から獲れた有難き一切れを、酢飯で握って一口で味わう瞬間。もし毎日同じものを食べなくてはいけないとして、私は鮨を選ぶだろう。

 鮨好きと語りあうとき、訊きたいことが一つある。結婚するならどのネタか。この選択はかなり難しい。良いところだけではなく悪いところもひっくるめて契りを結ぶのが結婚だ。みんな大好き大トロはお金持ちだし人望もあるけれど、忙しくてなかなか家にいないだろう。エビは人当たりは良いけれどピョンピョンと跳ねて浮気するかもしれない。そんなふうに鮨についてあーでもないこーでもないと言う時間が楽しい。

 斯くいう私はカワハギの肝のせを推したい。クセが無く上品な人柄。さっぱりした身の割に肝が据わっている。小葱や紅葉おろしなど薬味まで用意していて気配りがある。カワハギの肝のせとなら、病める時も健やかなる時も添い遂げられる気がする。滅多に出会えないのだけが残念ではあるが。

「そら、もひとつ、いいかね」 母親は、また手品師のように、手をうら返しにして見せた後、飯を握り、蠅帳から具の一片れを取りだして押しつ…

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ときめきをください/【吉澤嘉代子 エッセー連載】ルシファーの手紙 #3

ときめきをください/【吉澤嘉代子 エッセー連載】ルシファーの手紙 #3

 30歳を過ぎたあたりから恋の話を耳にしなくなった。大抵の同級生は結婚して落ちついているか、仕事に生きているか。好きな人の話で何時間も潰せたあの頃はどこへやら。話題はいつしか職場の愚痴や推し活の癒し、健康にまつわる話へと移っていった。大人になった私たちが直面しているのは生活なのだ。

 だから、ごくたまに年下の友人らから「好きな人ができて」とか「恋人ができて」とか聞くと、こちらの方が色めき立ってしまう。どしたん? 話きこか? と下心丸出しでメモしたくなる。

 それくらい書けない。ラブソングが書けない。あんなに近くにあったはずのときめきが今では朧げなのである。夢の中で計算をするように、思考したそばから答えが散らばっていってしまう。

 これは手前共の生業にとって死活問題だ。中高生の頃のように気持ちのままには動けない。かといって条件だけにも靡かない。もっと欲しい。大人になった私がときめく話を。

店長! ときめき一杯ください! 恋バナ大盛り! 純愛マシマシで!

キスしたいと思った そんなふうに強烈に 何かを思ったことはなかった いいなと思う人がいて 今かなと感じる手…

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こわくない幽霊/【吉澤嘉代子 エッセー連載】ルシファーの手紙 #2

こわくない幽霊/【吉澤嘉代子 エッセー連載】ルシファーの手紙 #2

 あなたは幽霊の存在を信じますか? こんなふうに始まる文章で、書き手が「信じない派」であるパターンを読んだ試しがないのだが、斯くいう私は信じない派だ。

 現実で霊的な存在に遭遇したことがないし、人の不幸や不安につけこむような商法には怒りを覚える。なんなら星座占いや血液型占いに苛々することもあるし、世間話で「晴れ女ですか」と訊かれただけで顔が歪んでしまいそうになる堅物なのだ。

 私は大人になった今でも「おばけ」が怖くて仕方ない。ホラー映画は本編どころかコマーシャルも見られないし、誰かが嬉々として会談話でも始めるものならば静かに退席する。

 決して存在を信じているから怖いのではない。条件反射でびっくりしてしまう自分が腹立たしい。どんなにつまらなくても、ある要素さえ揃えば涙せざるを得ない感動作と同じような仕組みなのだと思う。しかし、そんな過激幽霊否定派の私もこの小説の一節には胸を打たれた。

見ると、流しのところにおばあさんの後姿があった。ゆっくりとしたテンポで、お湯を沸かしてお茶をいれている。別にやかんが動いたり、お湯が実際に沸いているわけではなかった。半透明…

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運命の一節/【吉澤嘉代子 エッセー連載】ルシファーの手紙 #1

運命の一節/【吉澤嘉代子 エッセー連載】ルシファーの手紙 #1

 私は幼稚園児時代に居酒屋でアルバイトをしていた。酔っぱらいの客にも慣れたもので「可愛い子ちゃん」「ヒューヒュー」とからかわれても、愛想よくあしらいテキパキと配膳するので店の信頼は厚かった。

 他の従業員には内緒で「せっちゃん」という、同じくアルバイトの幼稚園児と交際していた。仕事をこなしながら、時折目配せして恋人同士の合図を送りあうのが楽しい。私たちは愛しあっていた。

 そんな夢を子供の頃にみた。ただの夢なのに目が覚めても恋は醒めず、私はその日から彼を探した。園で彼らしき児童を見つけると木陰に呼びだして「せっちゃんなの?」と訊ねたり、母の友人の子供が家に来ると「せっちゃんだよね?」と詰めたり。わんぱく盛りの男子たちは当然私を相手にせず、棒を振り回したり叫んだりしていた。

 それでも「せっちゃん」の存在を心から信じていた。この世界のどこかにきっといる。夢から飛び出した私の運命の人。

 それからしばらくして出会った『ダ・ヴィンチ』が本の世界を広げてくれた。その中で目に留まったのが穂村弘さんの『もしもし、運命の人ですか。』という連載だった。歌人にもエッセーに…

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吉澤嘉代子「この本が好きな人とは仲良くなれる気がします(笑)」

吉澤嘉代子「この本が好きな人とは仲良くなれる気がします(笑)」

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、ファーストアルバム『箒星図鑑』を発売した吉澤嘉代子さん。妄想と現実の間を生きていた少女時代に支えとなった小説『ぶらんこ乗り』と、曲作りの関係について話してくれた。

 シンガーソングライターが作る楽曲というと、実体験をベースにしたものが多く、そこに聴き手が自分を投影するからこそ、共感を呼び、人気を得たりするものだ。しかし、吉澤嘉代子さんが作る歌には、等身大の自分を主役にしたものがほとんどない。

「私の曲は、頭の中でできあがった架空の人物が主役なんです。この“芸風”ができあがったのも、少女時代に読んだ小説たちのおかげ。小説の主人公は年齢も性別も、育ち方も全部違いますよね。だからこそ、その主人公に自分が感情を重ねることで、見たことのない世界を疑似体験することができる。私はその素敵な体験を、音楽で表現したいと思ったんです」

 その言葉通り、彼女が生み出す歌詞はオリジナリティ溢れるものばかり。この作風の原点は、いしいしんじの…

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