アウシュヴィッツ収容所という地獄で見出した恋と希望――実話をもとにした抵抗の物語
『アウシュヴィッツのタトゥー係』(ヘザー・モリス:著、金原瑞人・笹山裕子:訳/双葉社)
好きな仕事をみつけて成長したい。さまざまな経験を積んで、世界を見て回りたい。そしてなによりも、この人しかいないという人をみつけ、恋に落ち、ともに楽しい時間を過ごしたい……。
若者の誰もが胸に宿すささやかな望みを真っ黒に塗りつぶされ、「朝、目が覚めたなら、今日はいい日だ」と思うまでに追い詰められた人々がかつていた。ナチスによる民族浄化作戦で迫害された被害者たちだ。
第二次世界大戦、アドルフ・ヒトラーが率いるナチス政権は、彼らが思うところの「劣等民族」を次々に収容所に送り込み、殺していった。標的となったのはユダヤ人だけではない。非定住民族のロマやナチスにとっての敵国人、またヒトラーを厳しく批判した学者や言論人も含まれていた。要するに「気に入らない者」なら誰でも抹殺したのだ。
本書『アウシュヴィッツのタトゥー係』(ヘザー・モリス:著、金原瑞人・笹山裕子:訳/双葉社)の語り手であるラリは実在の人物である。1942年から1945年までの3年間、アウシュヴィッツとビルケ…