「人ってちゃんと回復していくんです」──ダイレクトに心に”効く”連作短編集『夜空に浮かぶ欠けた月たち』窪美澄インタビュー
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年5月号からの転載になります。
「ふいに背中にあたたかなものが触れた」。たとえどんなに物語がつらい方向へ向かっていっても、どうしようもない思いに登場人物がとらわれていても、窪さんの小説には、いつもそんな感覚をおぼえる瞬間が訪れる。冒頭の一編〈キャンベルのスープ缶〉で、「私は大丈夫、私は大丈夫」と自分に無理な呪文をかけ、うつを発症してしまった大学生・澪の背にふと添えられる掌のように。
取材・文=河村道子 写真=冨永智子
「これまでの作品のなかでも心のケアについては遠回しに書いてきたのですが、『ははのれんあい』の新聞連載が終わり、肩の力がほっと抜けたところで、“今の自分が一番書きたいものって何だろう?”という問いと向き合ってみたんです。浮かんできたのは、もっとストレートに、心のケアについてアプローチをする物語。“心の病院”という設定を物語のなかにつくり、いろんな症状を持つ人々が現れてくる小説を書きたいと思いました」 そこには、自身の日々も重なる。 「もうだいぶ良くなってきているのですが、私も澪ちゃんと同じ、う…