人、動物、音、香り… さまざまな“齢”を通して〈永遠〉を描く、渾身の27編
『よはひ』(いしいしんじ/集英社) 表紙には、枠をはみ出る勢いでのびのびと書かれた「よ」「は」「ひ」の三文字。著者いしいしんじの5歳になる息子、「ひとひ」君の手によるものだ。日本経済新聞(2015年12月27日)に寄せたエッセイの中でいしいさんは、ひとひ君の「うまれてはじめてかくひらがな」がマス目や行を前提とせず、〈横に、縦に、ななめに、どんどん溢れ〉る様子を見て、〈五歳児は、書いたかわりになにかを求めない。書くこと、そのものが「贈る」こと「渡す」ことだ。物書きとして、いつかは到達したい境地だと、ぼんやり見あげている〉と語る。『よはひ』(いしいしんじ/集英社)で描かれる27編は、「おはなし」好きのおとうさんとその息子ピッピを通して、誰もが幼い頃持っていた感覚を呼び覚まし胸を打つ作品だ。
ピッピが目をあける。色が、光が、爆発します
ピッピの視点から見える世界を描いて鮮やかなオープニングを飾る「二歳五ヶ月のピッピ」。続く各章のタイトルを見ると、「六十二歳の写真家」「小学四年の慎二」など、なるほど「よはひ=“齢”」に関わる物語が続く。“齢”があるのは人間だ…