寒村で起こった奇怪な連続殺人、その正体は天狗? リアルと想像力がせめぎ合う、ハードボイルドの名作が復活
『TENGU』(柴田哲孝/双葉社)
1974年秋、群馬県の寒村で発生した連続殺人事件。残忍な方法で村人たちを殺害したのは人か獣か、はたまた村で語り継がれる“天狗”なのか…。柴田哲孝『TENGU』(双葉社)は、およそ人間業とは思えない連続殺人事件を扱った、国産ハードボイルドの名作だ。
『TENGU』というタイトルからオカルト的・伝奇的なテイストを想像するかもしれないが、実際読んでみるとそうした要素は希薄。『下山事件 最後の証言』などの骨太なノンフィクション作品で知られる著者だけに、不気味な事件の経緯を当時の世相を絡めつつ、シリアスかつハードに描ききっている。
主人公・道平慶一は中央通信のベテラン記者。ある日、彼は旧知の元警察官・大貫から久しぶりに連絡を受ける。群馬県警の鑑識課員だった大貫は、「あの事件」がいまだに気にかかっていること、残りの人生で事件を洗い直そうと思っていることを慶一に告げる。
「あの事件」とは26年前、鹿又村という山村に住む一家が撲殺されたのを皮切りに、村の住人たちが相次いで殺害された連続殺人事件のことだ。県警が総力をあげて捜査にあた…