文明開化の横浜を見守る、優しく懐かしいお話
横浜の喫茶店、カモメ亭を舞台にして、女店主のマダムさんと店の手伝いをしている女の子、ちろりちゃんの生活を追っていくというタイプの作品です。時代設定が明治(作中では、文明開化とだけ書いてある)の横浜だからなのか、それともマダムさんとちろりちゃんの立ち位置設定が似ているからなのか、森薫さんの『シャーリー』を連想させます。
たぶん、森薫さんがあの時代の英国に強い興味を持ったように、小山愛子さんはこの和洋折衷な港町に高い関心があったのでしょう。特定の時代の、ある街の様子を描くために、世代や身分が違うけれど、精神的には親しいふたりを中心に据えることや、様々な人が出入りする喫茶店や飲食店などを舞台にするのは、とてもうまいやり方だと思います。
うまいやり方というからには、街の様子、人々の様子はよくわかるのです。が、「どんな話なの?」という問いに答えるのは難しい。後々、ちろりに想いを寄せる実業家の子息っぽい男の子や、マダムと交友のあるお金持ちのわがまま娘などなど、キャラクターは増えていくのですが、彼らが共通の意識に動かされていくようなドラマがあるかというと、今…