孤島に作られた本物そっくりの街でくり広げられる殺人シミュレーション
西村京太郎というと、十津川警部の「亀さん、(事件の起きた列車に)乗ってみよう」が奥の手で、なぜか弁当食ってる(それも地元の名物の)シーンが挟まったりして、捜査してるんだかただの鉄っちゃんなのか途中で分からなくなってるありさまだけれど、本書では列車に乗らない。
列車に乗らないかわりに突然後頭部を殴られて昏倒、ふと気がつくとどことも分からぬ無人島に運ばれているという出だしである。どうしても遠くに行かないと気がすまない警部。西村という作家は、読んだことのない人が思っているよりずっと小説がうまく、アイデアも豊富で、なかなか読ませるのである。
目が覚めた十津川の見たものは、ひとつの町角が正確に再現されたセットのようなもので、けれど映画のセットのように中がからっぽの張りぼてでなく、住む人のこまごました持ち物まで用意された巨大なレプリカのような場所だった。
そこには十津川のほかに七人の男女が同じようにして連れてこられており、彼らはレプリカのモデルとなった町の住人であった。と、一人の老人が現れ、一年前に起きた殺人事件のことと、犯人にされた息子の無念を晴らしたいことを語…