元オリンピックランナーが書いた、暖かな自伝的ドジっ娘マラソン小説
このマラソン小説の著者は、増田明美さん。穏やかな優しい声でマラソンや駅伝の解説をしている姿を思い浮かべる人も多いだろうが、80年代の日本女子マラソン界を牽引してきた選手のひとりである。後にマラソンで日本女子初のメダリストとなる有森裕子さんが、高校時代に増田さんに憧れ、目標にしていたというエピソードもあるほどだ。
そんな増田さんが書いた物語は全3巻。千葉の田舎町で育った純朴でドジっ娘の中学生・美岬が、県の陸上競技会に出たときにその才能を見いだされ、陸上で有名な強豪校に入学することになる。ただ走ることが楽しかった時代から、競技としての陸上を学ぶことになるわけだ。ライバルとの出会い、部内の人間関係の悩み、ケガとの戦いなどを経て、高校駅伝、トラック競技、マラソンへと舞台を移し、世界陸上に出場するまでが描かれる。ヒロイン美岬の環境や経歴を見ると、ほぼ自伝的小説と言ってもいいだろう。
ここに描かれるのは、はからずも世界を目指すことになったひとりの少女の心の動きと、彼女を支える人々の物語だ。スポーツ小説としては決して目新しいチャレンジがあるわけではないし、アスリー…