村山由佳「25年やってきた今だから書けた」―― “黒村山”も封印した、恋愛文学の至芸『はつ恋』
村山由佳さんの新刊『はつ恋』(ポプラ社)は、千葉県南房総の海のそばの日本家屋で愛猫と暮らす小説家のハナと、大阪を仕事の基盤とする大工の一人親方・トキヲの物語。
幼なじみのふたりは、40代で再会して恋人になった。ハナにとって、トキヲは何もかも安心して預けられる初めての相手。トキヲにとってハナは、幼い頃から憧れていた“初恋のハナ姉ちゃん”。アラフィフのふたりの何でもない日常には愛が満ち溢れ、読み終わると、人生にこんな時間が待っているなら、歳を重ねるのも悪くない、としあわせな気持ちになる。
作家デビュー25周年記念作品でもある本作について、村山さんにお話を伺いました。
■「パートナーとのしあわせな日常を小説に」とのぞまれて
――この作品が生まれたきっかけから教えてください。
村山由佳さん(以下、村山) 企画の段階で編集者から、私と今のパートナーのしあわせな感じを小説で書いてほしい、と言われたんです。特別なことは起きないけれど、愛おしい日常をと。難しい注文でした(笑)。殺人事件も起きないし、途中でトキヲがモラハラ夫になるわけでもない(笑)。ただふたりの日…