昭和の猟奇殺人「阿部定事件」犯人の生涯をひもとく。「アベサダ」と記号化された女性を「懸命に生きた人間」として描いた村山由佳の新境地『二人キリ』
私が「阿部定事件」を知ったのは、中学の社会の授業だったと記憶している。昭和11年5月18日、阿部定と名乗る女性が、愛人の石田吉蔵を絞殺し、殺害後に局部を切り落とし持ち去った。猟奇殺人として現代まで語り継がれてきた阿部定事件は、人物名と殺害方法ば…
私が「阿部定事件」を知ったのは、中学の社会の授業だったと記憶している。昭和11年5月18日、阿部定と名乗る女性が、愛人の石田吉蔵を絞殺し、殺害後に局部を切り落とし持ち去った。猟奇殺人として現代まで語り継がれてきた阿部定事件は、人物名と殺害方法ば…
この世でもっとも敬愛する作家の名前を聞かれたら、迷うことなく「村山由佳さん」と答える。村山さんの作品に幾度となく魂を救われて、この年まで生きてきた。その村山さんが、デビュー30年の記念碑的エッセイ集『記憶の歳時記』(村山由佳/集英社)を上梓し…
現在私は、山奥の古い一軒家を借りて暮らしている。聞こえるのは鳥と虫の声のみ。だが、そこに時々「にゃあ」という声が混じる。そう、猫である。この家に越してきて間もない頃から、黒と白のハチワレ猫が連日我が家を訪れるようになった。警戒心が強い子な…
窮地に立たされた時、人は無意識に祈ってしまう。「神様、どうか助けてください」と。だが、その願いはいつも聞き入れてもらえるわけではない。村山由佳氏による長編小説『天翔る』(講談社)の主人公・“まりも”も、神様に「願いを聞いてもらえなかった」側…
毎日一緒に暮らしたい。片時も離れたくない。通常は、そう思えるほど愛した人と「結婚」を決意するものだろう。しかし、いざ「毎日一緒」の生活がはじまった途端、互いのバランスが崩れ出す夫婦は少なくない。 “たまたま二本の線がぶつかったタイミングで、…
村山由佳氏による小説『すべての雲は銀の…』(講談社)が出版されたのは、2001年11月。今からおよそ20年あまり前になる。私が著者の作品にはじめて出会ったのは、高校生の頃だった。最初に出会った作品は『翼 cry for the moon』で、私の人生を大きく変えた…
1993年、『天使の卵エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞し、作家としてデビューした村山由佳氏が、今年デビュー30年を迎える。大きな節目を記念して、“原点回帰にして到達点”と謳われる短編集、『ある愛の寓話』(文藝春秋)が1月10日に刊行され…
子どもの頃から、猫が好きだった。祖父母の家には、ほぼ野良と化した三毛猫がいて、名前は「ミミ」といった。週末に遊びに行くたび、私はミミと野原で遊び、多くの歳月を共に過ごした。 今現在、私は猫との生活が許されない状況にある。どういうわけか、20歳…