鹿鳴館時代を生きる女学生の熱く美しい友情と戦いを描く 滝沢志郎著『明治乙女物語』
『明治乙女物語』(文藝春秋) 第24回松本清張賞を受賞した滝沢志郎の『明治乙女物語』(文藝春秋)は、このストレートなタイトルが示す通り、舞台となるのは後に「鹿鳴館時代」と呼ばれる明治の世、東京は御茶ノ水の高等師範学校女子部(通称・女高師)の寄宿舎で暮らす女学生たちの活躍を描く青春群像ミステリーだ。
事件が起こるのは明治21年、秋。時の文部大臣・森有礼が女高師の講堂で主催した舞踏会の最中、校庭で爆発音が響き、続いて講堂に置かれたコスモスの植木鉢に仕掛けられたと思しき爆発物が破裂。薄い煙が立ち上り、植木鉢から破裂音が続く。突然の事態に皆が立ちすくむ中、猛然と植木鉢に駆け寄って水差しの水をぶちまけて破裂を止めたのが、女高師3年の野原咲だった。咲はさらなる爆発で被害が出ないよう、植木鉢を誰もいない演壇の上に向かって放り投げる。それを目撃した森有礼は「私の考えも及ばぬ、見事な女子だ」と感嘆するが、学友の駒井夏は咲の無謀な行動に激昂し、思わず頬を張って「死んだらどうすんの、この大馬鹿!」と怒鳴ってしまう。
咲はドレスを完璧に着こなす日本人離れした壮健な肉体に成…