学生時代に過ごした街で感じる、“浦島太郎”のような不思議な感覚。そんな街での新生活を優しく描く『うらはぐさ風土記』
久々に学生時代に過ごした街を訪れると、何だか立ちすくむような、泣きたいような気持ちにさせられる。胸をつくような郷愁。物悲しさと、滑稽さ。かつて確かにこの街で過ごしたはずなのに、変化したその姿についていけない。懐かしいはずの街の風景に、ソワ…
久々に学生時代に過ごした街を訪れると、何だか立ちすくむような、泣きたいような気持ちにさせられる。胸をつくような郷愁。物悲しさと、滑稽さ。かつて確かにこの街で過ごしたはずなのに、変化したその姿についていけない。懐かしいはずの街の風景に、ソワ…
ドラマ化で話題の中島京子さん『やさしい猫』(中央公論新社)は、タイトルからは想像できない、痛みと祈り、そして戒めに満ちた小説である。 語り手のマヤは幼いころに父親を亡くし、母のミユキさんとふたり暮らし。クマさんと呼ばれるスリランカ人の男性に…
疲れすぎて、何を食べていいのかもわからなくなってしまったとき。あるいは、理不尽な現実に打ちのめされて、何もかもいやになってしまったとき。もし少しでも文字を追う余力があるのならば、『小さいおうち』で直木賞を受賞した、作家・中島京子さんの初エ…
中島京子氏の長編小説『やさしい猫』(中央公論新社)は、シングルマザーの「ミユキ」と娘の「マヤ」、そしてミユキと結婚を約束したスリランカ出身の「クマラ」の3人を軸に、外国籍の人々が日本で暮らすという過酷な現実を描く。 “きみに、話してあげたいこ…
誰かとともに生きていくために、一度、ちゃんと別れることも大事なのだなあ、と『ムーンライト・イン』(中島京子/KADOKAWA)を読んで思う。 本作は奇妙な同居生活の物語。80代、車椅子ユーザーの新堂かおる。50代、家事全般とかおるの介助を担当する津田塔…
小説を読むという行為は、存外、脳のカロリーを消費する。そのため、心や体の体力が低下しているときは、読みたいという気持ちがあってもなかなか集中できないことが多い。そんなとき、ちょっとした気分転換にぴったりなのが『1日10分のごほうびNHK国際放送…
JR上野駅公園口から動物園や美術館が並ぶ上野恩賜公園を東京藝術大学方面に向かうと、レンガ造りの堅牢な建築物が視界に入る。子どものための本を揃える「国際子ども図書館」だが、正直子どもだけのためにするのはもったいないほどクラシカルで素敵な佇まい…
ええ、夫はわたしのことを忘れてしまいましたとも。で、それが何か? 認知症と診断された夫を自宅で支え続け、10年。曜子のたどりついたこの言葉を、何度も何度も、読み返した。 その直前に書かれた「この人が何かを忘れてしまったからといって、この人以外…