田舎のマドンナだった母さん。弁論大会で力強く語る姿に父さんは一目ぼれをした/84歳の母さんがぼくに教えてくれた大事なこと④
作家・辻仁成氏が自身の母の半自叙伝を、豪快な秘話とともに書き下ろした泣き笑いエッセイ集。心に響くとツイッターで大反響! 母の愛と人生訓にあふれた一冊です。
『84歳の母さんがぼくに教えてくれた大事なこと』(辻仁成/KADOKAWA)
スーパーウーマンの涙
母さんはどんな人だったのだろう。 若い頃、母さんは田舎の郵便局のポスターに写真が使われたことがあるようで、父さんだけじゃなく、母さんが生まれた島の男子たちの憧れの的、これは母さん曰くなのでちょっと眉唾な話だけれど、いわば、田舎のマドンナ的な存在だったらしい。 他に好きな人がいたというのに父さんが結納金を握りしめて強引にやってきて半ば略奪するような感じで結婚させられたのだとか……(※あくまでも母さんの言い分であり、父さんに確認できたわけじゃない)。 父さんはと言うと、ずんぐりとした体形で、とてもハンサムとは言えないごつごつした顔立ちだった。 「ね〜、ママはどうしてパパと結婚したの? パパは子熊みたいなのに」 と弟が訊くので、ぼくは笑いを堪えるのに必死であった。 「それに、パパは頭のてっぺんに…