たとえば猫のように気ままに暮らす女探偵がいたとして
はたから見れば「何をやってんだか」と思われることでも、当人にしてみれば真剣に取り組んでいることが多々あります。事件の大きさや影響は個人の価値観の委ねられ、その事の大きさの大小を決めているのです。作者である鶴田謙二という人物はその尺度をぼかすのがとても上手な方です。キャラクターが大事件に直面しているようで、それをごくごく個人的な事情に見せたり。実は大事件のはずなのに、当の本人は意外とのほほんと過ごしていたり。
日常の切り取り方がとても自然体なので、読者自身が「一体これは何と直面しているんだろう?」と不思議な感覚に陥ってしまいそうになります。今回もそんな鶴田マジックが遺憾なく発揮されている『Forgot me not』。何ゆえに「忘れないで」と問うのかは読んでからのお楽しみです。
主人公である伊万里マリエルは鶴田謙二お得意の「好奇心旺盛でちょっとずぼらな女の子」です。イタリアでワケありの探偵業を営む異邦人。そんな彼女がすんなりとイタリアの景色に溶け込んでいるのが何だか面白かったりします。変装上手で、神出鬼没、それでいて地元の警察のおじさんたちを抱きこむよ…