「在日の人が抱える疎外感を代弁したかった」 ―田村優之の小説『月の虹』が泣ける!
2年前に文庫化された小説『青い約束』が、いまビジネスマンの間で話題になっている。過去と現在、青春時代のロマンと日本経済の現実が交錯する本作品と、同じく文庫化され6月に発売された『月の虹』で共通して描かれるのは、ある年齢に達した人間が誰しも抱く喪失感だ。しかし田村さんは物語の力でその向こうに再生と希望の光を照らし出している。男が読んで泣ける物語の秘密がここにある。
田村優之 たむら・まさゆき●1961年香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。98年、バブル末期から崩壊直後の東京を舞台に日本経済の危うさを独自の視点で描いた『ゆらゆらと浮かんで消えていく王国に』で第7回開高健賞受賞。経済分野の新聞記者として20年以上のキャリアを持つ。現在は編集委員。
あのとき開けなかったドアの向こうに何があったのか
自分はなぜここにいるのだろう? 今までの選択はほんとうにこれでよかったのか? やり直しのきかない人生の過程でふと胸に浮かぶこんな思い──。 「あのとき開けなかったドアの向こうや曲がらなかった道の先に何があったんだろう? そんな思いをずっと引…