平野紗季子「おやつは生きのびるために必要なもの」
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』7月号からの転載になります。
自らを「食のしもべ」と言うフードエッセイストの平野紗季子さんに味と記憶をめぐるお話を伺いました。おやつ時間が人生にもたらすものとは……? (取材・文=河村道子)
救世主は、いつもカバンのなかに鎮座していたという。 「仕事は好きだったのですが、会社員だったとき、私はかなり疲弊していて。会社勤めをしていると〝いきなり絶望〟みたいな電話がかかってくるとか、思いがけないところから矢が飛んできたりするじゃないですか。そのショックに耐えられるよう、こまごまとしたおやつをカバンのなかにいつも忍ばせていたんです。会社の共用スペースに誰かのおみやげとしてよく置いてあったヨックモックのシガールや銀座ウエストのリーフパイをせしめて(笑)。どちらも割れやすいので、気付いたらカバンの底のほうから粉々になって出てくることがよくあったのですが、それを粉薬みたいに、アーと顔をあげて、いただいては救われていました」
さらにはこんなことも。 「仕事で、もうおしまいだ……という状況になったとき、気付いたらウエストに直行し…