ホラー映画の趣向を取り込んだシリアル殺人鬼ミステリー
ホラー映画の真骨頂は嘆美につきると私は勝手に考えている。この世の果てほども美しいものと組んずほぐれつフィルムをまわしていくのが本当のホラー映画だというわけだ。
その喫水線で選ぶと私のホラー映画ベスト3はこうなる。
1.『サスペリア』 ダリオ・アルジェント監督 77年公開 2.『ファンタズム』 ドン・コスカレリ監督 79年公開 3.『ヴィデオドローム』 デビッド・クローネンヴァーグ監督 83年公開
どの3つもストーリー的にはハチャメチャだが、作り手の抱く鮮血や幻想や変形する身体への美学が強烈なショックを与えずにおかないんである。
もちろんホラー映画のおもしろさについてもっと別の基準を持っているファンも多くいる。たとえば本書の語り手である映画評論家の庄内良輔が、スプラッターもの、つまり血がドバドバ飛び散る手の作品が好みなのであるように。
庄内はうだつの上がらない評論家として映画雑誌に安い原稿料の記事を書いて暮らしているのだが、ある日災厄が訪れる。彼をなじった助監督が凄惨な殺され方で発見されるのだ。次々と起きる殺人事件は、すべて彼のあげたホラー映画ベスト10にな…