書くこと、読むことが拓く可能性。葉真中顕が示す現代小説の到達点『ロング・アフタヌーン』インタビュー
“小説はその本を手にした者が読むことによって完成する”。古今東西、書き手となった人たちが発してきたその言葉が示すところとはいったい何なのだろう。書くこと、読むことの間ではどんなシナジーが生み出されているのか。
(取材・文=河村道子 撮影=TOWA)
ロスト・ジェネレーション世代が抱える壮絶な闇を抉った『絶叫』、日系ブラジル移民の間で起きた分断を描く『灼熱』をはじめとする作品群から社会派作家として知られる葉真中さんが本作で分け入ったのは、フィクションが人に及ぼす作用の深淵にあるもの。 「作家には、生み出したキャラクターが自身に憑依する人とそうでない人がいると思うのですが、これまでの私は圧倒的に後者でした。自分のなかに多視点を用意し、それを合議させ、キャラクターたちを俯瞰しながら動かす、という書き方をしてきた。けれど“小説家になりたい”と、私のなかに現れたひとりの女性を書いていくうち、これまで得たことのない感覚で“彼女”は私に憑依してきた。自分とは属性的に距離のある、たとえば更年期障害があるとか、身体的にも絶対に経験できない感覚すら持つ人だったので…