「姥捨山」と呼ばれる過酷な部署が舞台。パワハラ・セクハラが横行する人材派遣会社で戦うヒーローたちの奮闘記
『それでも会社は辞めません』(和田裕美/双葉社)
何らかの壁にぶつかるたび、いつも思う。「わかりやすい正解があればいいのに」と。でも、そんなものはどこにもない。正解なんて、人の立ち位置によって簡単に変わる。
和田裕美氏による書き下ろし小説『それでも会社は辞めません』(双葉社)は、人材派遣会社を舞台に「人」と「仕事」の多様な在り方を描いた連作短編集である。全7章からなる本書は、章ごとに主人公が異なる。その誰もが、大きな挫折を経験した者たちだった。彼らが働く職場「パンダスタッフ」には、社内の方針に従わない者や売上に貢献できない者を追いやる「AI推進部」なる部署があった。別名「姥捨山」と呼ばれるその場所は、クレーム処理や雑用、飛んだ派遣社員の尻拭いなどを強いられた挙句、上役からは蔑まれる過酷な環境であった。
第1章で登場する福田初芽は、異動当初、上役たちから受けるパワハラにより心が折れかけていた。そんな折に町で偶然出会った「魚屋さん」は、彼女の話に耳を傾け、真摯な言葉で自分の考えを伝える。魚屋さんの言葉に勇気をもらった福田は少しずつ変わっていき、やがて…