「五時の鐘がよくきこえる場所を教えられた」そこはかとなく心にくる自由律俳句/『蕎麦湯が来ない』⑦
美しく、儚く、切なく、哀しく、馬鹿馬鹿しく、愛おしい。鬼才と奇才。文学界の異才コンビ・せきしろ×又吉直樹が詠む、センチメンタル過剰で自意識異常な自由律俳句集より、その一部をご紹介します。
『蕎麦湯が来ない』(せきしろ、又吉直樹/マガジンハウス)
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続きは本書でお楽しみください。
最終更新 : 2018-06-08
コラムニスト
美しく、儚く、切なく、哀しく、馬鹿馬鹿しく、愛おしい。鬼才と奇才。文学界の異才コンビ・せきしろ×又吉直樹が詠む、センチメンタル過剰で自意識異常な自由律俳句集より、その一部をご紹介します。
『蕎麦湯が来ない』(せきしろ、又吉直樹/マガジンハウス)
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『蕎麦湯が来ない』(せきしろ、又吉直樹/マガジンハウス)
そこからだと月は見えない
突然、後輩から電話があった。数年前は毎日のように顔を合わせていたから随分久しぶりのように感じた。最近は劇場で会うと「また飲みにいこう」とは言うものの、なかなか実現していなかった。このタイミングでの電話は嫌な予感がする。 下北沢の中華料理屋に一人でいることを伝えると、会うことになった。後輩は店に着くなり、「実は相談がありまして……」と重い口調で話しはじめた。後輩は数年前にコンビを解散したあと、一人で活動を続けていたが、演劇に出演する機会があり、お芝居の面白さと厳しさを痛感し、本気で役者をやりたいという気持ちが強くなったらしく、その一方で芸人を続けたいという気持ちもあるという。 僕は両立を提案したが、芸人のままだと、演劇の世界の人達から甘やかされてしまうことが本人は嫌なようだった。真…
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『蕎麦湯が来ない』(せきしろ、又吉直樹/マガジンハウス)
ナイロンジャケットの擦れる音が耳に残る
風が吹いている夜。見上げると雲の流れるスピードが速く、月が見え隠れしている。私は終電を逃し、お金も使ってしまったので徒歩で帰宅していた。 酔っ払いも、ホステスも、残業終わりの人も、スケボーに乗った若者もいなくて静かだ。風の音がするが、それよりナイロンジャケットの擦れる音が耳に残る。 暗い道で自動販売機がただ光っていた。それはヤクルトの自動販売機で、ミルミルを買おうかどうか迷った末、買って飲んだ。「ああ、こういう味だったなあ」と思い出しながらすぐに飲み終わり、横にあったゴミ箱に捨てた。 再び歩きだそうとした時、十メートル先くらいを何かが横切った。私はビクッとして足を止めた。それはすぐに路駐してあった車の陰になって見えなくなった。 私はその場に立ちすくんで今見た物体…
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『蕎麦湯が来ない』(せきしろ、又吉直樹/マガジンハウス)
誰も取らなかったピックの軌道
十代最後の夏、人気ミュージシャンが多数出演する数万人規模の音楽祭のチケットを知人から譲り受けたので、一人で横浜まで赴いた。 僕は芸人として歩みはじめた時期で、爆発的な集客を誇るミュージシャンに対して劣等感を募らせる一方で、よくこれだけ大勢の他人を前にして唄えるなと同情もしていた。僕は、親戚が七、八人集まっただけで口を開く気が一切無くなってしまう性質だった。 新しいミュージシャンが舞台上に登場するたびに、もし自分がこの音楽祭に出演していたとして、登場時に観客が無反応だったら、恥ずかしくて死んでしまうのではないかと不安に思った。それは恐ろしい想像だった。僕は新しい出演者が登場するたびに固唾を呑み、どうか大きな反応がありますようにと願った。 もちろん、一定の人気が無ければ出演すら…
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『蕎麦湯が来ない』(せきしろ、又吉直樹/マガジンハウス)
水面に太った男が映っている
私が今住んでいる町から、大きい公園に行くとしたら選択肢はふたつある。ひとつは井の頭公園で、もうひとつは善福寺公園だ。どちらも距離は同じくらいで、徒歩で十五分といったところか。 どちらにも長所と短所があり、井の頭公園は吉祥寺の街のそばにあるから、公園を堪能した後に、あるいは予定を変更して何か食べに行ったり買い物したりすることができる。一方、善福寺公園は住宅街に囲まれているので公園以外何もない。公園を楽しむだけの大変ストイックな状況になる。ただ、井の頭公園は若者が多いが、善福寺公園にはいないため、騒がしくなく、聞きたくない歌声を聞かされることもない。 どちらの公園にもボートに乗れる大きな池があるが、私はボートに乗ることはない。白鳥の形をしたものではなく、オーソドックスな漕ぐタイプの…
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『蕎麦湯が来ない』(せきしろ、又吉直樹/マガジンハウス)
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<第3回に続く>
美しく、儚く、切なく、哀しく、馬鹿馬鹿しく、愛おしい。鬼才と奇才。文学界の異才コンビ・せきしろ×又吉直樹が詠む、センチメンタル過剰で自意識異常な自由律俳句集より、その一部をご紹介します。
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<第2回に続く>
『たとえる技術』(せきしろ/文響社)
圧倒的なユーモアと豊かな文章力で定評のある文筆家・せきしろの『たとえる技術』が、2016年10月12日(水)に発売される。芥川賞作家・ピース又吉直樹や、直木賞作家・西加奈子らとの共著でも知られ、数々の芸人にコント脚本を提供するなど、独自のユーモアを生み出すせきしろの表現力の秘密は、「たとえ」にあった―。
「たとえる」とは何か? たとえば、驚いた時は「オダギリジョーが本名と知ったときのように驚いた」。喜びを伝えたい時は、「『この犬、他の人になつくこと滅多にないのよ』と言われたときのように嬉しい」など、感情を際立たせる機能をもっている。 また、ありきたりになりがちな表現に一気に彩りを与える効果もある。たとえば、アーティストがライブで叫ぶ「盛り上がってますかー!?」も、たとえを使えば無数のバリエーションが生まれるのだ。「さるかに合戦で飛び出してくる栗のように、盛り上がってますかー?」「お湯が沸く寸前の電気ケトルの中のように、盛り上がってますかー?」もしあなたがアーティストの立場になった時のためにもぜひ覚えておいて…
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