「競技ダンス」という“麻薬”。『最後の秘境 東京藝大』著者が描く華やかな大学競技ダンス部の舞台裏!
『紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ』(二宮敦人/新潮社)
夢中になるということは恐ろしい。その状態は、「夢の中」にいると書くのだ。夢の外から、世間や常識に呼ばれていても気づかない。寝ても覚めても、周囲には見えない幻影をひたすら追いかけ続けてしまう。だからこそ、累計発行部数22万部超えの『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』(二宮敦人/新潮社)で、奇人変人が集う驚異の異界(失礼!)を冷静に誠実に取材した著者が、学生時代、そんなにも熱い経験をしていたということには、少し驚かされてしまう。
これまで黙っていたが、僕は踊れる小説家である。
そんな一文から始まる『紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ』(二宮敦人/新潮社)が扱っているのは、「競技ダンス」の中でも、とくに学生競技ダンスである。競技ダンスとは、社交ダンスから発展した、社交目的ではなく、周囲のペアと技を競うことを目的としたダンスのこと。この物語は、作者の分身である大船一太郎という大学生が経験した競技ダンス部での4年間を、大人になった小説家の彼自身が、当時の仲間…