ママの店は、男たちが風俗店に行く前の待合室でもあり、“ノミ屋の窓口”でもあり…『里奈の物語』⑦
物置倉庫で育った姉妹(里奈と比奈)は、朝の訪れを待ちわびた。幾つもの暗闇を駆け抜けた先に、少女がみつけた希望とは―。ルポ『最貧困女子』著者が世に放つ、感涙の初小説。
『里奈の物語』(鈴木大介/文藝春秋)
その日、中心気圧900ヘクトパスカル前半、最大風速45メートル/秒という非常に強い台風は、九州地方に上陸後、西日本をゆっくり横断。高潮と相まって大きな被害を出していた。里奈たちの住む伊田桐市もまた、昼頃から降り始めた雨がほんの1時間ほどでたらいをひっくり返したようなような暴風雨だ。
幸恵の勤めるパブスナックは安普請で、強風が吹くたびに壁に叩き付けられる大粒の雨音が、バラバラとまるで小石でも投げられているかのようだった。 「こんな天気じゃ客もくそもねぇがん」
店長兼ママさんの志緒里さんが毒づく割に、カウンター10席にボックス20席ほどしかないパブスナック店内は結構な人の入りである。と言ってもその面々は付近の飲食風俗店のスタッフばかりで、あまりの大雨に早々にその日の営業を諦めて集まってきたという次第だった。
そんな客層だから、志緒里ママもずいぶん…