嫁いだ相手は、いまをときめく若女形…。“歌舞伎の面白さを伝えたい”『おんなの女房』蝉谷めぐ実インタビュー!
“とざい、とーざい”。あの呼び込みの声が聞こえてきた。ときは文政、ところは江戸。一世を風靡したものの足を失い、舞台を降りた元女形と彼の足代わりとなる心優しき若者が、役者を殺し、その者へと成り代わった“鬼”を芝居小屋で探しゆく『化け者心中』で、颯爽と檜舞台に現れ、文学賞三冠をはじめ、やんやの大喝采を浴びた蝉谷さんが、次なる筆を進めた先は“女というもの”。
(取材・文=河村道子 撮影=TOWA)
「『化け者心中』では、女形である自身を女として捉え、日々の暮らしでも女として生きようとする役者の業の深さ、芸のために男と女の境界線を越えたところにいようとする役者の“女”をフォーカスしました。今作では女そのもの、たとえば、仕事を取るの? 私を取るの? みたいな現代にも通じるところのある、女の業の深さを書きたいと思いました」 そこで物語の芯に立ったのは、“目の前には女の己より美しい女がいる”と呆然とする女形の女房・志乃。ふた月前、顔も見ぬまま、父の決めたまま、お江戸三座のひとつ、森田座で評判の若女形・燕弥のもとへ嫁いできてから志乃は尻を落ち着ける場所がわか…