ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、山下紘加『あくてえ』
『あくてえ』
●あらすじ● 「『あくてえ』は、悪口や悪態といった意味を指す甲州弁」。19歳のゆめは、あらゆることに苛立ち続けている。憎まれ口ばかり叩く祖母、優しさのあまり誰にも何も言えない母、外に子供を作って出ていった祖母の実子である父親、軽薄さの滲み出る彼氏、そして、日々を必死にこなすうちに遠ざかっていってしまう小説家という夢……。思うようにならないヘヴィな日常への叫びが、ゆめの一人称で語られる。
やました・ひろか●1994年、東京都生まれ。2015年『ドール』で第52回文藝賞を受賞しデビュー。著書に『クロス』『エラー』などがある。本作『あくてえ』は第167回芥川賞候補作となった。
山下紘加河出書房新社 1650円(税込) 写真=首藤幹夫
編集部寸評
作家志望者からこぼれ落ちる悪態 ゆめとその母のきいちゃん、そして「ばばあ」の三世代が同居する家。そこで交わされる悪態に、きいちゃんは関与しない。ゆめの悪態は「ばばあ」にのみ向けられ、出ていった父親や彼氏に対するそれも、似て非なるものだ。彼らはゆめにとって、逃れがたい生活の外側にある。そう…