「想像で書いたのに、結果的に自分が似た境遇になってしまった」――新作小説『うるさいこの音の全部』で作家デビューの舞台裏を描いた思いとは? 芥川賞作家・高瀬隼子さんインタビュー
『うるさいこの音の全部』 (高瀬隼子/文藝春秋)
2022年『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)で第167回芥川龍之介賞を受賞した小説家・高瀬隼子さん。2023年10月に新作小説『うるさいこの音の全部』(文藝春秋)が刊行されました。本作の主人公は兼業作家の朝陽。「早見有日」のペンネームで書いた小説が芥川賞を受賞し出版されたことで、彼女の日常が軋み始める――という「作家デビュー」をテーマにした物語です。自身と似た境遇の主人公を描いた高瀬さんの、本作に込めた思いをお聞きしました。
(取材・文=立花もも 写真=内海裕之)
「こんなふうになったらいやだなあ」と思ったことを書いていた
――読み手のいろんな感情を掻き立てる小説ですね。小説家、それも芥川賞を受賞した女性が主人公ということで、どこまでが高瀬さんの現実とリンクしているのだろうと邪推する読者も多そうですが……。
高瀬隼子さん(以下、高瀬):そうなんですよね。『おいしいごはんが食べられますように』で芥川賞を受賞したとき、小説を書いていることが周囲にバレて、ちょっとざわつきはしましたけど、1年経っ…