石垣ひとつで、こんなに楽しめる! テレビ番組でもおなじみの「お城マスター」から学ぶ、日本の城の奥深き世界

文芸・カルチャー

公開日:2022/6/17

城郭考古学の冒険
城郭考古学の冒険』(千田嘉博/幻冬舎)

 テレビや雑誌の特集でも今や人気企画として定期的に取り上げられ、ここへ来て、ますます盛り上がりつつある感のある「お城ブーム」。最近では、その楽しみ方もさらに多様化が進み、城下町のグルメ散策などと絡め、旅行モードの延長で楽しむカジュアルなファンも多い一方、最新のスマホ・アプリを駆使し、これまでなら足を踏み入れられなかった僻地の「山城」をめざす強者マニアも急増中なんだとか――本書『城郭考古学の冒険』(幻冬舎)は、そんな空前絶後のブームをきっかけとし、もっと深いレベルでお城めぐりの「沼」にどっぷりハマりたい!と思っている方に、まさにうってつけの1冊だ。

 著者の千田嘉博氏は、これまでにも多くの歴史本を執筆しており、ゲスト出演したテレビ番組での親しみやすく、情熱あふれまくり!なキャラクターでもおなじみの“城マスター”。本書では、旧時代的な「文献頼り」のアプローチとは異なり、実際に城周辺の土地をつぶさに歩き回り、リアルな観察や発掘調査こそを重視する、最新の「城郭考古学」の魅力をたっぷりと紹介してくれる。本人の後書きでの言葉を借りれば、「~歴史を考えるのに、本から学ぶのは大切である。しかし自分自身で城を訪ねて、本物の城から五感で考えるのも、とても大切である――」というわけだ。

 中でも、初心者のお城好きにオススメしたいのは、第2章《城の探検から歴史を読む》のパートだ。実際に城を鑑賞する際、ほとんどの人は「天守閣」のド派手で壮観な建築美にばかり目を奪われがちなもの。でも、本書は、城の見どころは天守だけではなく、「櫓(やぐら)」や「門」、「石垣」や「堀」の構造にもあることもあわせて教えてくれる。たとえば「門」や「石垣」の項では、具体的な例として、鉄壁の要塞として名高い「姫路城」のケースを詳しく解説。美しい天守へと続く道のりを「攻め手の気持ち」になって歩いてみれば、お城めぐりの楽しみが一気にグッと深まること間違いなしだ。

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 一方、日本史は「戦国時代」が一番好き!という歴史ファンの方にオススメなのは、第3章《城から考える天下統一の時代》。この章では、戦国から近世へかけての城郭の進化の歴史が、おなじみの天下人との関わりを軸に検証されていく。たとえば、安土山の山頂に高層の天守閣が建てられた「安土城」は、城主の織田信長が御殿の一部として実際に住み、すべての家臣屋敷と城下に暮らす人びとの頂点に君臨した結果、信長がめざす新たな社会構造のシンボルとなった!……などという記述を読めば、信長ファンならずとも、歴史ロマンの情熱がふつふつと湧き上がってくるはず。その他にも、明智光秀の「戦国の働き方改革」だった福知山城、徳川家康が建てた「平和な時代」の政治拠点の集大成=江戸城……などなど、どの城郭論も、知的な好奇心を刺激する「歴史コラム」感覚で楽しめるのが嬉しい。

 ちなみに、本書が刊行されたのは「2021年1月」。当時も楽しく読めたけど、ちょうどコロナ禍の影響と重なってしまったこともあり、実際にお城めぐりに出かけるには、あまりいいタイミングではありませんでした……でも、その点、今はもう大丈夫。感染対策はしっかり継続した上で、今年の夏こそは、城郭考古学の「最前線」が詰まった本書を片手に、日本全国の名城を巡る「冒険」の旅へ繰り出してみては?

文=内瀬戸久司

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