母親が連れてきた再婚相手は悪魔でした――地獄のような10年間を描くコミックエッセイ

マンガ

更新日:2022/6/24

母の再婚相手を殺したかった 性的虐待を受けた10年間の記録
母の再婚相手を殺したかった 性的虐待を受けた10年間の記録』(魚田コットン/竹書房)

※この記事には不快感を伴う描写が含まれます。ご了承の上、お読みください。

「心の傷」という使い古された言葉では表現できないほどの痛みが、ここには詰め込まれている。『母の再婚相手を殺したかった 性的虐待を受けた10年間の記録』(魚田コットン/竹書房)は、そう感じさせる実録系コミックエッセイだ。

 作者は夫と3人の子ども、そして猫と暮らすエッセイ漫画家。本作では幼少期から10年間にわたり、母親の再婚相手から受けた性的虐待の実情を赤裸々に告白。当時の心境も、克明に綴っている。

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母が連れてきたのは地獄を見せる「悪魔」だった――

 作者宅は、母子家庭。昼夜、仕事を掛け持ちする母と7歳上の姉の3人で暮らしていた。

 小学4年生の時、作者は母から「友人と食事をする」と言われ、連れていかれた先で友人グループの中にいた「ツカサ」という男に出会う。以来、ツカサは家にやってくるように。一緒に遊ぶ中で、作者は心を許すようになった。

母の再婚相手を殺したかった 性的虐待を受けた10年間の記録 P3

 しかし、ほどなくして日常的に怒鳴ったり、物に当たったりする、ツカサの暴力的な一面を知る。作者は言い争いの際に殴られたことから、力で勝てることを分かっていて平気で子どもに暴力を振るうツカサを嫌いになっていった。

 そんなある日、恐怖を感じる出来事が…。それは、ツカサと2人で留守番をしていた時のこと。ひとりでお風呂へ入っていると、ツカサがやってきて「一緒に入ろう」と誘ってきたのだ。

 一瞬、心がザワついたが本能的に拒否してはいけないと思い、了承。ツカサは作者の全身を洗い、用を足すためだけのところだと思っていた部位にも手を伸ばしてきた。

 洗ってくれているだけ。嫌な気持ちになるのは悪いこと。そう思うも、こみあげてきたのは不快感と底知れぬ恐怖。なぜか後ろめたさを感じ、母には言えなかった。

 そして、数カ月後、再び経験したくなかった恐怖が作者を襲う。深夜、人の気配を感じ、下半身の違和感を覚えて目を覚ますと、ツカサが作者のズボンを下げ、不気味な笑みを浮かべていた。

 この一件も母に伝えることはできず、家は安心できない場所に。あんな男、いつか母も見限るはずと小さな希望を抱いていたが、母の妊娠が発覚。2人は結婚することとなり、地獄のような日々は続くこととなった。

 作者は直接的な被害だけでなく、性的な質問をされたり、母とツカサの行為動画を見せられるなど、間接的な性的虐待も経験。「冗談」や「おふざけ」という言葉で包み隠されてしまうようなこうした性的虐待は、メディアなどでもクローズアップされにくく、本作から、その卑劣さと子どもに与える傷の深さを痛感する。

被害者となっても「幸せになる権利」は奪われない

母の再婚相手を殺したかった 性的虐待を受けた10年間の記録 P138

母の再婚相手を殺したかった 性的虐待を受けた10年間の記録 P144

 実は作者、本作をブログで発表するまで、継父からの性的虐待を誰にも話したことがなかったそう。誰かに言おう、ネットに書き込もうと何度も思ったが勇気が出ず、友人や夫を騙しているような後ろめたい気持ちで日々を過ごしていたという。

 そんな呪縛の苦しさも本作には記されており、ギリギリのところで自分を保っていた作者の10年間を「かわいそう」や「頑張ったね」という言葉だけで片付けてはいけないのだと強く思わされる。

 また、あとがきからは作者のもとに実際に寄せられた当事者の複雑な胸のうちもわかり、心が痛んだ。

「私なんかが幸せになれるわけがない」「子どもを持ったり、結婚したり、普通の幸せを手に入れられるなんて思えない」オカシイですよね、こっちは完全な被害者なのに。でもみんな、そう思っちゃうんです。過去の私も思っていました。

 性被害や性的虐待は周囲に気づかれにくく、伝えるには勇気がいる。そのため、何年も何十年もひとりで苦しみ続けている人も多いことだろう。そんな人にこそ、本作が届いてほしい。

私は自分の体験談を描くことしかできませんが、それでもこれを読んだあなたがどうか少しでも癒されますように。あなたは幸せになる権利を奪われてはいません。

 自分も幸せになっていい、いや、思いっきり幸せになるべきだ――。本作との出会いを通して、そう思える当事者がひとりでも多くなることを切に願う。

文=古川諭香

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