ダ・ヴィンチWeb「学生エッセイコンテスト」結果発表! 2位作品『約9㎞の帰路』

マンガ

公開日:2022/6/29

 2022年4月、ダ・ヴィンチWebと、学生のクリエイティブなアイデアを募るプラットフォーム「FLASPO」がコラボレーションし、学生向けエッセイコンテストを開催しました。テーマは『コロナ禍の学生生活』。想像をはるかに上回る多くの応募が寄せられ、しかもそのどれもが力作揃い。編集部全員で目を通し、入賞作品を決定しました。

 今回は、見事2位に入賞したペンネームさくれ はらさんの作品をご紹介します。

 タイトルは、『約9kmの帰路』です。

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「登校日が減った」、「体育祭がなくなった」、「卒業式が三年生だけになった」。多くの学生が挙げるコロナ弊害は、多くがこのあたりに集中すると思う。今年大学二年生になる私はコロナ弊害を受けた第一世代だったと思う。そんな私が思うコロナ弊害は、「電車の利用を避けるために歩いた帰路」。これ一択だ。間違いない。

 前代未聞の新型感染症に世間は混乱し、感染対策を徹底するしかなかったわけだが、我が家では感染対策として交通機関の利用禁止が祖母から言い渡された。え?利用禁止?ド田舎の高校なのに?車の免許をもっていない私が一番キツイのでは?

「大丈夫よ、駅についたら私に連絡して。迎えに行くから」

なんか、そういうことじゃない気がした。友人や恋人と帰る帰路が青春だとか、電車に乗ることが学生の特権なのにだとか、そう思ったわけじゃない。この時期は進路あれこれで面接練習やエントリーシートの記入、共通テストの勉強などで友人と一緒に帰ることができる日が少なかった。奇跡的にいた彼氏とも一緒に帰る日は週に一回で、その一回すらお互いの大学受験の準備でなくなることも多々あった。でもそれは、仕方ない理由だから腑に落ちた。「そういうことじゃない」。そう感じた理由は、高校三年生という学生生活が異質すぎる理由で捻じ曲げられたことだった。コロナ禍だったからこそできた思い出だとか、苦労した世代だから得た経験だとか、そういうものが私は苦手だった。私たちの世代より前の高校三年生が当たり前に獲得してきた「学生生活」が突然無くなってしまったのが、悔しかった。

だから私は、家から約9kmある帰路を歩くことにした。行きは母の通勤と被っていたので最寄駅まで送ってもらっていたが、何せ田舎の学校である。お察しの通り最寄駅からのアクセスが悪い。駅から少し抜ければ、とんでもないほどの坂が待ち受けている通学路だった。まったくたまったもんじゃない。

とかなんとか言っている私は、なんだかんだこの約9kmの帰路が好きだった。一時間以上かけて帰る通学路が、好きだったのだ。家についたころには疲労で眠くなるし、筋肉痛は避けられないし、ふくらはぎは隆々としてくる。メリットは絶対ない。健康になるとかそんなものはどうでもいい。健康なんてもんは当時の私の優先順位は低い。

…無駄のように見えるからこそ、たまらなく愛しい思い出なのだと思う。当時の彼氏が「家まで送るよ」といってくれた際に、「私歩いて帰ってるんだけど…」と返すと「…うわやらかしたわ」みたいな顔をしたことが忘れられない。それでもいい格好をしてくれようとして、「俺歩くの好きだわぁ~!」と言ってくれた当時の彼氏は絵にかいたような高校生らしさで愛しかった。馬鹿みたいに長い帰路で手を繋ぐことは恥ずかしすぎてなかったけど、約9kmあるならさすがに繋いでほしかった。ほんとに。

 コロナ禍の学生生活。捻じ曲げられた学生生活を必死に戻そうとしていた私が行き着いた、とんでもねえ長さの帰路をほぼ毎日歩いて帰るという考えは今考えれば無駄な気もする。それでも、今こうして思い出して懐かしんでしまうほどには好きな思い出であることを否定できない。コロナ禍だからこそできた思い出、そうまとめたくはないがこれが私のコロナ禍の学生生活だ。暫くは歩かなくていいと思う。

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 学生の皆さんが書いてくださったエッセイの入賞作品は、今後順次ダ・ヴィンチWebで公開していきます。ぜひご注目ください。

FLASPOとは、学生のクリエイティブなアイデアを募るコンテストプラットフォームです。企業・自治体が学生向けのオンラインコンテストを開催し、学生が解決アイデアを考えることで、アイデア収集・PR・採用など幅広い活用が可能です。
HP :https://flaspo.jp/

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