ダ・ヴィンチWeb「学生エッセイコンテスト」結果発表! 3位作品『SFの種』

文芸・カルチャー

公開日:2022/6/29

 2022年4月、ダ・ヴィンチWebと、学生のクリエイティブなアイデアを募るプラットフォーム「FLASPO」がコラボレーションし、学生向けエッセイコンテストを開催しました。テーマは『コロナ禍の学生生活』。想像をはるかに上回る多くの応募が寄せられ、しかもそのどれもが力作揃い。編集部全員で目を通し、入賞作品を決定しました。

 今回は、3位に入賞したペンネームN.Aさんの作品をご紹介します。

 タイトルは、「SFの種」です。

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 現実は簡単にSFを凌駕する。

 私がそのことを強く実感したのは、2020年4月。通っている大学から、今後の授業に関する連絡を受けたときだった。原則オンライン、実習のみ規模を縮小して対面で行う。ようやく始まる専門課程を楽しみにしていた私にとって、波乱含みのスタートとなった。画面から延々と放たれる教授の言葉は味気なく、友人と話す機会も減った。自粛生活なんて、早く終わってしまえばいいのに。そう思った。

 ただ、悪いことばかりではない。私の家から大学まで、大体往復2時間かかる。オンライン授業の日は、外出の準備をする必要もない。結果的に、普段より多くの自由時間を手に入れることができた。とはいえ、緊急事態宣言が出ている以上、外で遊ぶのは難しい。私はその時間を使って、漫画や小説を読むようになった。

 最も印象的だった本は『1984年』、ジョージ・オーウェルの代表作だ。完璧に構築された虚構の世界、ディストピアの中にも希望を見出す主人公、そして何より最後の驚くべき幕切れが心を打った。世間が荒れると『1984年』が売れる。このような噂にも納得がいった。

 読了の数日後、外せない用事のため、久しぶりに最寄り駅へ向かった。電車は想像以上に空いており、私は何だか、ウイルスの持つ権力が怖くなった。誰が命令しても、朝方の満員電車から人を除くことなんて、不可能だと思っていたのに。透明な空気の中に泳いでいるかもしれない病原体は、どうやら想像以上の難敵らしい。

 用事から帰宅した後、電車が舞台のSFを書いた。

 元々趣味で創作をしていたのだけれど、意欲的に取り組むようになったのは、コロナ禍に入ってからだ。奇妙な日常の中には、多くのアイデアが転がっていた。SFになるかもしれない種を、一つずつ拾っていき、発芽しそうなものをショートショートに仕上げた。そうすることによって、コロナ禍を保存できるのではないかと思ったのだ。カメラマンがシャッターを押すように、あるいは、キャスターがニュースを読み上げるように。

 アイデアは着々と増えていった。電子メモ帳の容量は無限に近かったから、余白を気にせず想像にふけることができた。幸い、ショートショートのいくつかは、日の当たる場所で評価を得た。「星新一賞」というSF短編賞の優秀賞を、2年連続で受賞した。星新一は、ショートショートの神様は、この世の中を見てどう思うのだろう? オンライン授賞式の途中、私はふと疑問に思った。これもまた、変化した日常。

 今、パンデミックの終わりの兆しが見え始めている。しかし、私が創作をやめる日は、もっとずっと後だろう。アイデアだけは、バーゲンセールしてもいいくらいあるんだ――この言葉を残したのは、漫画の神様といわれる手塚治虫である。私のメモ帳の中にも、SFの種がまだまだ残っている。綺麗な花を咲かせる日は、そう遠くないかもしれない。

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 学生の皆さんが書いてくださったエッセイの入賞作品は、今後順次ダ・ヴィンチWebで公開していきます。ぜひご注目ください。

FLASPOとは、学生のクリエイティブなアイデアを募るコンテストプラットフォームです。企業・自治体が学生向けのオンラインコンテストを開催し、学生が解決アイデアを考えることで、アイデア収集・PR・採用など幅広い活用が可能です。
HP :https://flaspo.jp/

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