富野由悠季監督が原作! 映画『機動戦士ガンダムF91』の続きを描いたコミック『機動戦士クロスボーン・ガンダム』

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公開日:2022/6/25

機動戦士クロスボーン・ガンダム
機動戦士クロスボーン・ガンダム』(富野由悠季:原作、長谷川裕一:漫画、矢立肇:原案、カトキハジメ:デザイン協力/KADOKAWA)

 1991年に公開されたアニメ映画『機動戦士ガンダムF91』。本稿で紹介する『機動戦士クロスボーン・ガンダム』(富野由悠季:原作、長谷川裕一:漫画、矢立肇:原案、カトキハジメ:デザイン協力/KADOKAWA)は、映画の10年後を描いた作品であり、アニメ等のコミカライズではないガンダムコミックで唯一、富野由悠季監督が直接脚本を書いている作品である。

 本作の後は『機動戦士クロスボーン・ガンダム スカルハート』から、最新作『機動戦士クロスボーン・ガンダムX-11』(すべてKADOKAWA)まで、漫画を手掛けている長谷川裕一氏オリジナルの5作の続編が発表されており、シリーズ累計300万部を記録している人気タイトルになっている。

 本稿のライターは、1990年代半ばに『月刊少年エース』(KADOKAWA)で連載していた時にリアルタイムで読んでいて(まだガンダムエースは存在していなかった)、痛快なSF冒険活劇、という印象くらいしか正直持っていなかった。だが今改めて読み返してみると、新たな気持ちでハマってしまったことを告白しつつ、その魅力を紹介したい。

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 まずストーリーがいい。主人公のトビア・アロナクスは勇気と行動力がある魅力的なキャラクターで、彼がどんどん成長していく姿に引き込まれる。

 そして映画「F91」に登場した主要なキャラクターとモビルスーツ(以下MS)が登場し、もちろん物語設定も地続きになっているのがたまらなかった。なので「F91」を知っていれば、より作品の奥行きを感じることができるだろう。とはいえ本作単体で成立しているので、映画を観ていなくてももちろん楽しめるのでご安心いただきたい。

ニュータイプの少年の痛快冒険活劇

機動戦士クロスボーン・ガンダム

 時は宇宙世紀0133年。地球圏の留学生の一団が木星圏へ向かっていた。そして彼らの乗る艦が突如、宇宙海賊「クロスボーン・バンガード」に襲撃される。

 留学生の一人、15歳のトビアは勇敢にも艦にあったMSで迎撃に出るが、命こそ助かったもののガンダムタイプのMSに撃墜される。その混乱のなかで、彼は自分たちが乗ってきた艦が、地球圏侵攻をもくろむ「木星帝国」(ジュピター・エンパイヤ)の輸送船だったと知る。

機動戦士クロスボーン・ガンダム

「クロスボーン・バンガード」に捕らえられたトビアは、自分を殺さなかったガンダムのパイロット、キンケドゥ・ナウから「木星帝国」の野望を聞く。

 木星資源の採掘を行う組織「木星公社」は「木星帝国」と名乗り、密かに地球侵攻を目論んでいたのだ。トビアは留学生に紛れ込んでいた謎の少女、ベルナデット・ブリエットと出会い、「木星帝国」に立ち向かうべく、海賊と共に戦うことを決意する。

機動戦士クロスボーン・ガンダム

「クロスボーン・バンガード」には「クロスボーン・ガンダム」1号機のパイロット、キンケドゥ・ナウのほか、2号機のパイロットであるザビーネ・シャル、そして海賊のリーダーを務める女性、ベラ・ロナがいた。彼らは宇宙世紀0123年に起こった「コスモ・バビロニア建国戦争」後からの仲間で、トビアはこの歴戦の勇士たちと行動することになる。MSで戦うことはもちろん、時には身一つで敵基地に潜入するなどの経験を積み、いつしかニュータイプの才能を開花した彼はついに「クロスボーン・ガンダム」3号機のパイロットとなるのだ。

 果たして「木星帝国」の首領クラックス・ドゥガチが地球を攻める真の目的は――。謎をはらみながら、少年の冒険が続いていく。

ロナ家の娘の決断と、クロスボーン・ガンダムvs.F91のバトル

機動戦士クロスボーン・ガンダム

 本作のキーとなるキャラクターがベラ・ロナだ。その名は『機動戦士ガンダムF91』を知る方であればピンとくるだろう。彼女こそセシリー・フェアチャイルドであり、「コスモ・バビロニア建国戦争」を起こしたマイッツァー・ロナの娘だ。

機動戦士クロスボーン・ガンダム

 ベラは「コスモ・バビロニア建国戦争」時からの仲間と共に、「木星帝国」に立ち向かっていた。彼女はこの10年の間にコスモ・バビロニアの組織を分裂・瓦解させたが、ドゥガチの野望を知ると母国の軍隊だった「クロスボーン・バンガード」という名を引き継いで宇宙海賊を組織。28歳になった彼女の決断が物語を引っ張っていく。戦士として、女性として、彼女の揺れ動く心情にも注目してもらいたい。

機動戦士クロスボーン・ガンダム

 そしてMSについて。主役機の「クロスボーン・ガンダム」はその名が示す通り、額などにスカルマークの意匠が施され、背部には十字にクロスさせた骨(ボーン)のような形状のスラスターを持つ。

機動戦士クロスボーン・ガンダム

 さらに、ビームが当たると表面が蒸発することで機体の被弾を防ぐ布状の装備「A.B.C.(アンチ・ビーム・コーティング)マント」を装備するのも特徴で、その姿はまさに海賊だ。

機動戦士クロスボーン・ガンダム

 当時の最新鋭機ではあるものの、強力なビーム兵器・ヴェスバーを装備した「F91」には火力で劣っており、接近戦に比重を置いた設計と武装が施されている。「クロスボーン・バンガード」は地球連邦軍とも対立することになるので、この時代ではすでに連邦軍で量産されている「F91」と戦う場面もある。キンケドゥやトビアが駆る「クロスボーン・ガンダム」とのガンダム同士のMSバトルも大きな見どころだ。

機動戦士クロスボーン・ガンダム

 本作は全6巻でベラたちの10年越しの戦いは一応の決着が付くが、先にも述べた通り多くの続編も描かれているシリーズとなっている。作品をまたいで登場するキャラクターのその後と活躍が楽しめるのは「ガンダム」の醍醐味のひとつだと思うので、特に映画「F91」を観た人はぜひ手に取ってほしい。

文=古林恭

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