自由と独立の気風を養ってくれる大ベストセラー
公開日:2012/11/17
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」
この言葉を耳にしたことのない人はいないだろう。『学問のすすめ』の冒頭におかれた言葉である。じつは、初めて聞いた時から今もって、この言葉を聞くと人間が有象無象に積み重なって肉団子のカタマリになっている光景をつい思い浮かべてしまうのだが、もちろんそういう話ではない。
人には身分差別なんてものは存在しないのだ、という宣言である。
今こういわれれば、当たり前のことだと感じ、また同時に当たり前だが絶対実現しねえよ、とすねる気持にかられるのがはなはだ悲劇ではあるものの、本書刊行の明治8年、この言葉はおびただしい驚きと覚醒を人々にもたらしたに違いないのだ。
いうまでもなく、巌の如き身分制度がはびこっていたからだ。士農工商は厳格に人々を分けへだてしていた。またさらにたとえば「士」、つまり武家の社会の中ひとつをとってみても、主従の関係は絶対だったし、男性と女性のあいだにも強い上下関係が仕切りを作っていた。
そんな時に、人は平等だ。自由だ。そんなことを抜かしたのである。深澤諭吉は。だもんで、当時、日本の総人口が3000万人のときに、300万部売れちゃったのである。字の読める人はほとんど全員読んだのではないだろうか。
本書によってすすめられる「学問」は、必ずしも書を読むことではない。机上の学問がすすめられているわけではないのだ。実学である。生活に役立つ勉強である。
といっても、魚の獲り方を学ぶわけじゃない。
政治、経済、法律、また国民としての自覚、正しいことと誤りの見分け方、国家としての自立の意識、などなど世界に目を向けた「私」を身に付けよということなのだ。
同時に、現政府への批判も行っている。国民としての気風を確かに持たずば、
「ひとりひとりのときは懸命だが、集まると暗愚。政府はたくさんの智者を集めて、ひとりの愚人がやるようなことをやっている。」という事態に陥らざるを得ないと。
この未曾有の不況下からみれば、ちょっとどうかと首をひねりたくなる箇所もあるとは言え、うつむかず、上を仰いで生きていきたい「意志」をくみ取ることは貴重だろう。
原文は、出版当時にはたいへん読みやすいものだったが、現在では逆に非常にとっつきにくいといわざるを得ない。高い志を持とうと願う読者には、本書の読みやすく飲み込みやすい現代文で、はるかに青き雲を追ってゆかれんことを。
「はじめに」に、斎藤孝の「学問のすすめ」のすすめ、が書かれている
有名な一文の載っている冒頭部
身分でなく、学のあるなしが人間を作ると主張する