暴言を吐かれるのは日常茶飯事…現役医師が描く、コロナ禍の新人医師たちをめぐる青春物語

文芸・カルチャー

公開日:2022/6/30

ホワイトルーキーズ
ホワイトルーキーズ』(佐竹アキノリ/主婦の友インフォス)

 医者だって人間だ。自分の未熟さを実感することもあれば、患者の理不尽な態度に怒りを感じることもある。新人ならばなおさら。はじめての経験に戸惑うのは当然のことだろう。

ホワイトルーキーズ』(佐竹アキノリ/主婦の友インフォス)は、臨床現場の実態を目の当たりにする4人の研修医の群像劇。最新第2巻では研修開始から3カ月が経った研修医たちの姿が描かれる。現役医師の作品とあって、その描写はかなりリアル。今まで知らなかった医師の生活がありありとみえてくる。

 舞台は、北海道の空知総合病院。医学部卒業後、2020年、コロナ禍の真っ只中、この病院で初期研修を始めた4人の研修医は、3カ月が経過し、少しずつ臨床現場に慣れてきた。だが、まだ専門のない初期研修医は1〜2カ月ごとに診療科がめまぐるしく変更になり、科が移るたびその経験はほぼリセットされる。小児科に移れば子どもの診察がうまくできなかったり、産婦人科に移れば超緊急帝王切開が必要な妊婦が搬送されてきて困惑したり、麻酔科に移れば、気管挿管の手技に大苦戦したり。自らの無力さを痛感させられることは決して少なくない。

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 特に、最新巻でみえてくるのは、研修医たちが向き合うことになる患者たちの身勝手さだ。たとえば、都内私立大学の医学部を卒業後、実家の医院があるこの地方に戻ってきた研修医・沢井詩織は人付き合いを苦手としながらも、患者への対応に慣れつつあった。だが、1人で回診をしていた時に、高齢の男性患者から「診察してくれ」と、突然下半身をみせつけられるセクハラ被害に遭う。また、救急車で運ばれてきた患者には女性医師だからと舐められ、顔を引っ掻かれた上、「てめぇ! 殺すぞ!」と暴言を吐かれる。医者は暴言を吐かれようが暴れられようが、患者の治療をする義務がある。沢井はその難しさを強く感じているし、生活苦の中で医師を目指してきた朝倉雄介も同様に患者対応に苦労させられる。

「お部屋は暑くしてたんですかね」
「そんなことない。最近の医者はプライベートまで聞くのか。人権侵害だぞ」
(あんたのプライベートなんて興味あるか! 仕事だから聞いてるんだよ!)

「他人の不幸で金儲けして嬉しいか」
(あんたを診ても俺の給料は変わらねえし、明日寝不足で仕事しないといけなくて辛いだけだっての)

 だが、うまくいかない日々の中、研修医たちは互いが互いを支え合う。愚痴を言い合ったり、時には身を呈して仲間をかばったり、コロナ禍の中、患者対応で濃厚接触者になり、自宅療養を余儀なくされた時には、同期みんなで家まで差し入れを届けにいったり。互いに励まし合い、一つひとつ苦難と向き合いながら確かに成長していく彼らの姿を応援せずにはいられない。

 研修医たちはこんなにもたくさんの理不尽を乗り越えながら毎日を過ごしているのか。その日常を知れば知るほど、医師という職業に改めて頭の下がる思いにさせられる。そして、一歩一歩、確実に成長していく彼らの姿がまぶしく目に映る。研修医たちの知られざる日々。悩み苦しみながら、着実に前へと進んでいく彼らの懸命な姿に胸が熱くなる1冊。

文=アサトーミナミ

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