コンピュータ社会が生んだ不気味な風景
公開日:2012/11/20
2001年に、第21回横溝正史ミステリ大賞を受賞したホラーミステリ作品。最先端の現代的な風景と、田舎の因習的な風俗を融合させた意欲作である。
ゲーム会社に勤める汐路は、社屋の屋上から飛び降りた無理心中事件に遭遇する。それは両親が手をつなぎ合って崖から転落死した過去を思い出させた。同じころ、故郷の田舎町で中学生が猟銃で同級生を撃ち殺し、失踪した事件の噂を耳にする。興味を抱いた彼女は、生まれ故郷を調べ始めると、殺人事件の発生数が全国でも異様に高いことに気づく。しかも自殺した同僚が集めていたケイジロウなるキャラクターグッズと故郷に関連のあることがわかる。
汐路は帰郷して2つの事件の背後にあるものを調査することにした。しかし、彼女の育った時とまるっきり変わらぬ町は、不気味ともいえる濃密な人間関係が、ゆがんだ空気をはらんでいるのだった。
やがて、いまわしい人物の影が浮かんできて…。
前半はゲーム会社の内部事情を克明に伝える描写が展開され、その組織、仕事のありようとストレス、よろこび、などデータ小説の様相をていしている。これはこれでゲーム好きのむきにはおもしろく書けていると思う。もう少しいえば、かなり長めの伏線といえないこともない。
後半になって、実家に帰った汐路が、姉をつけ回す暴力的なストーカーと遭遇するあたりから、私にとっては、一気に「読ませる」物語に姿を変えた。ストレートに突っ走る物語というよりも、エピソードを積み重ねて、波状的な読み心地にさそうリズムも魅力的なのである。
ネタバレになるのでかけないけれど、ラストにかけて、コンピュータ社会のいびつな構造が人間に与える、おぞましい運命のごときものは背筋をちょっと凍らせる。
ただ、前半のボリュームが均衡としてはいささか長いかなという感想を抱いたのも確かなのではあるが。
冒頭には、一見無関係とも思われる3つのエピソードが並べられている
エピソード2
エピソード3