1週間、謎の失踪をした父に何もなかったように接する母…数年後、娘が知った失踪理由とは。家族の在り方を考えさせるミステリコミックエッセイ

マンガ

更新日:2022/7/20

わたしは家族がわからない
わたしは家族がわからない』(やまもとりえ/KADOKAWA)

 家族はつくづく、不思議な集団だと思う。一緒にいる時間が一番長いのに、時が経つにつれて、相手のことがよく分からなくなっていったり、気づいた時には気持ちがすれ違っていたりすることも少なくない。

 一体、私は家族のことを、どれほど知っているのだろうか…。そんなモヤモヤを感じた時、手に取ってほしいのが、家族の在り方を考えるきっかけとなるコミックエッセイ『わたしは家族がわからない』(やまもとりえ/KADOKAWA)。

 本作は父親の一時的な失踪を機に、どこにでもいる「平凡な家族」の形が少しずつ変容していく様を描いた、ミステリコミックエッセイだ。

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夫の失踪を機に「家族の在り方」が揺らいで…

 星野家は誠実さを重んじて穏やかな暮らしを望む夫・誠と、家族との平穏な暮らしを何よりも大切に思う妻・美咲、そして我が家の平凡さをコンプレックスに感じている娘・ひまりの3人家族。

 美咲は彼女の母親と同じく、「普通が一番」が口癖。美咲の母親は厳格な家庭で育てられた反動から、ワルそうな男と結婚。悲惨な結婚生活をおくることとなり、口を開けば自身の生い立ちや夫への恨みを吐露。そんな母は美咲の目に、自分のことしか見えていない毒親に映っていた。

 普通の幸せに憧れ、不幸なままの母のように私はならない。そう思い、美咲はかわいい娘と優しい夫がいる「平凡な幸せ」を維持しようと、日々頑張っていた。

わたしは家族がわからない p12

わたしは家族がわからない p13

 ところが、ある時。誠の様子に違和感を覚える。話しかけても気づかなかったり、上の空だったりと、まるで心がここにないよう。心がザワついた美咲は浮気を疑いつつも、いつも通り日常をこなしていた。

 すると、ある日突然、誠は失踪。携帯が繋がらなかったため、職場に電話をすると1週間ほど休暇を申請していたことが判明。美咲は不安を募らせた。

夫が今 どこにいるのか 何をしているのか 考えるのが 少し怖い

 けれど、美咲はひとまず、誠が休暇を申請した1週間、帰りを待つことに。

わたしは家族がわからない p54

 すると、1週間後、誠は少し痩せて帰宅。美咲は誠を問い詰めることなく、何もなかったかのように家族を続けた。

 それから、時は流れ、娘のひまりは中学生に。ある日、ひまりはクラスメイトから、父の誠を自宅から離れた駅で見たと何度も聞かされるようになる。それを機に幼少期、父親が何日か失踪していたことや、父が戻ってきた際に母が何も聞かなかったことを思い出し、自分たち家族の在り方に疑問を持つようになる。

 過去の記憶と現在の父親の不審な行動には、何か関係があるのだろうか。そう思ったひまりは誠を追跡し、秘密を探ることに。すると、誠の失踪理由や空白の1週間の真相が明らかに。家族の形は歪み始めていく――。

何の問題もない家族なんて、きっとどこにもいない

 本作は母親、娘、父親の順に視点人物が変わり、ストーリーが進んでいくのだが、どの人物に共感するかによって、物語の感じ方が変わってくる。

 例えば、美咲は家族間で何か問題が生じても家族と向き合うことを放棄してしまう性格だが、彼女が毒親育ちで「自分さえ我慢すれば…」という自己犠牲的な思考であるところに共感すると、美咲が事なかれ主義になったのも仕方がないのでは…と思えてしまう。

 こんな風に、「家族が歪になった原因はこの人にある」と、明確に断言できないところが本作の奥深さなのだ。

 各々、何かを背負いながらも家族でい続けようとする星野家。その歪さは、自分の家族にもどこか通ずる部分があり、多くの読者は、我が家の形を見つめ直したくなるのではないだろうか。

「幸せそうに見えたけどね」 他人は簡単にそう言うけれど、なんの問題も苦労もない人間なんてきっとどこにもいないわけで、掘り下げていけば、みんな何かを抱えているものです。とくに「家族」なんてものは、一番近いようで、本当のところは理解できていない部分が多い存在なのだろうと思います。

 そんな刺さるあとがきが記され、最後の1ページまで楽しめる本作。

 よくある不倫話というオチではないのかと思っている人に衝撃を与えるラストが、ここには用意されている。

文=古川諭香

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