前作を知っている人もそうではない人も楽しめる「このマンガがすごい!オンナ編」2位の話題作『後ハッピーマニア』メインキャラそれぞれに訪れる変化

マンガ

公開日:2022/7/24

後ハッピーマニア3
後ハッピーマニア3』(安野モヨコ/祥伝社)

 人気漫画を世に送り続ける漫画家・安野モヨコさんの初のヒット作は、1990年代に連載された『ハッピー・マニア』である。20代半ばの主人公・シゲタカヨコの、はちゃめちゃで独特な個性と、体当たりでたくさんの恋をする姿は、主人公と“ひとりだけの恋人”との恋愛模様を描いた従来の女性向けコミックとは一線を画しており反響を呼び、テレビドラマ化もされた。

『ハッピー・マニア』のあと、カヨコは一途にカヨコを想い続けていた年下のタカハシと結婚し、主婦として生活していた……が、続編『後ハッピーマニア』(安野モヨコ/祥伝社)はそのタカハシがカヨコに離婚を切り出すところから始まる。現実の時間と同様に『ハッピーマニア』の世界も20年の月日が経ち、20代だったカヨコは45歳になっている。

 カヨコは昔のままの性格で、タカハシに対してもうれつに怒りながらも気にしていなそうなそぶりをする。しかし長年の親友・フクちゃんはカヨコが深く傷ついていることを見抜く。

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 ヒット作の続編は前作を超えられないとよく耳にするが、『後ハッピーマニア』は前作以上のパワーを持った漫画であり、「このマンガがすごい!2021 オンナ編」第2位にランクインした。

 カヨコ、タカハシ、カヨコの親友フクちゃん、フクちゃんの夫ヒデキ、フクちゃんとカヨコの元セックスフレンド田嶋など、前作からのメインキャラが続々とあらわれ、20年前と今、それぞれの登場人物の変化と変わらない部分を見せる。『ハッピー・マニア』時代を思い出す台詞がいたるところにちりばめられているのも、前作連載時から本作を読んでいた読者をわくわくさせる。

 一方で本作では、タカハシが心惹かれカヨコとの離婚を決意する原因になった詩織や、フクちゃんの家庭も仕事も奪おうとする寿子、新婚時代のカヨコに浮気を持ちかけ、現在は田嶋の妻と浮気をしている三島など、新キャラも物語を盛り上げ、『後ハッピーマニア』から読み始めた読者を置いてきぼりにしない。

 物語は基本的にギャグテイストだが、実は自信がなく不器用なカヨコの心の声や行動を描写した場面も多い。カヨコがどんなに突飛な行動をとっても読者に愛されているのは、彼女が感情移入できるキャラだからだ。

 例えば最新刊の3巻で、タカハシとの離婚届にサインをしたあと、フクちゃんに「仕事を探さないとね」と言われたカヨコはこう思う。

そう…実は困惑してる
これまでぼんやりと感じてた「守られてる感」が一気に消滅したことに
頭では理解してるつもりだったのに
実際そうなってみたら想像以上だった
想像以上に不安だった

 結婚してからパート以外の仕事をしていなかったカヨコは、これから厳しい現実と向き合っていかなければならない。その姿はリアルで再現性のあるものだ。

 一方、ある出来事がきっかけで、カヨコは今まで自分自身も知らなかった才能が開花する。フルタイムの仕事に直結するわけではないが、この才能によってカヨコは新たな出会いと収入を得るチャンスを手にするのだ。

 チャンスが到来するのも自分の新たな才能に目覚めるのも、若者だけの特権ではなくなった今の時代をもカヨコは象徴している。

 そしてまた、本作はカヨコだけではなく、夫が家に帰らなくなったフクちゃんや、既婚者と知らずにタカハシを好きになってしまった詩織の人生も描写する。

 詩織はタカハシとカヨコのよりが戻ることを願いタカハシの前から姿を消すが、3巻ではそんなタカハシと詩織にも転機が訪れる。主人公から夫を奪う登場人物は悪役になることがほとんどだが、詩織はそのやさしさと真面目さから「タカハシが好きになるのも無理ないな」と読者を納得させてしまう存在だ。

 カヨコは恋も仕事もうまくいくのか、フクちゃんと夫ヒデキの仲は修復するのか、タカハシと詩織の関係はスムーズに進展するのか……先の読めなさは前作の『ハッピー・マニア』以上であり、リアルタイムで新たなファンをどんどんと獲得している。

文=若林理央

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