家族の食卓に乗っていたのはバラバラの体。『なかよし』伝説の付録『恐怖の館』、あなたの忘れられない作品は?

マンガ

更新日:2022/8/17

『なかよし』の伝説の付録『恐怖の館』を、皆様覚えていらっしゃるでしょうか。

 1995~97年の3年間、夏の号に付いてきたホラー漫画オンリーの特別冊子です。ホラー漫画界の重鎮、日野日出志先生による表紙を見れば、思い出す方も多いはず。あとで検索してみてください。不気味なタッチの絵に、子ども心に恐ろしくなったのを覚えています。

 当時、『なかよし』で連載を持っていた先生方が描くホラー漫画は、クオリティの高いものばかりでした。それまで、純然たる少女漫画しか読んでこなかった読者たちに、〈少女漫画×ホラー〉の面白さを教えてくれた、まさに革命的付録といえます。

 残念ながら、掲載作品のほとんどは、単行本未収録。今となっては読める作品はかなり限られているようです。悲しいです。しかし、あんな傑作ホラー漫画が忘れられていくのは、あまりにもったいないと思いませんか? 当時の読者も、今この記事を読みながら記憶を手繰り寄せているに違いありません。あの夏に読んだホラー漫画、今一度思い出そうではありませんか。

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『家族の食卓』小坂理絵

『とんでもナイト』『ヒロインをめざせ!』の小坂理絵先生によるホラー漫画。本誌では、ギャグ満載のラブコメを描いていた小坂先生が、急に怖い感じの絵を描いたので、読者はびっくりしました。

 ある日の小学校、先生から「かぞくのしょくたく」をテーマに絵を描きなさいと言われた子どもたち。この課題に、一人だけ浮かない顔をしているのが千佐。お母さんの作る料理が美味しくないというのです。おせっかいなクラスメートのるりは、「私が料理を教えてあげる」と言って、無理やり千佐の家へと上がり込みます。

 すると、台所ではちょうど千佐のお母さんが夕飯の準備をしているところでした。しかし何か様子が変です。台所を覗いたるりは、目を見開いてその場に立ち尽くします。そして「なに これ…!?」という言葉を最後に、姿を消すのです。

 翌日、教室には嬉しそうに絵を描く千佐の姿がありました。画用紙いっぱいに描かれていたのは、異形の姿をした両親と千佐。そしてテーブルのお皿にはバラバラになった人間が…。

「るりちゃんのおかげではじめてママのお料理成功したの」
「るりちゃんってホントにいい子だね 先生」

 という千佐のセリフで物語は終わります。お皿の上の肉は、るり? 千佐の両親は一体なんなの? 『恐怖の館』の中でも特にインパクトのある作品だったと思います。

『三途の川』犬木加奈子

『不気田くん』や『不思議のたたりちゃん』で有名な犬木先生の作品も、『恐怖の館』に収録されていました。ほかの先生方が比較的可愛らしい絵だったのに対し、犬木先生の絵はザ・ホラー。怖くて夜は読めませんでした。

「ついさっき死んだ」という少女が、三途の川までやってきます。生きていたって楽しくない、天国で好き放題やるんだと、死んだにしては上機嫌。向こう岸にあるはずの天国を目指して、川へと入っていきます。

 ところが中程まで来ると、川の流れがどんどん激しくなっていき、少女は川下へと流されてしまいます。周りには同じように流されている人々の姿。

 じつはこの三途の川は、流されているうちに古い体が脱皮のように脱げていき、やがて赤ん坊の姿へと戻す川だったのです。恐ろしくなった少女は、慌てて岸へと戻ります。目が覚めるとそこは死んだはずの自分の部屋。天国ではなく“この世”に戻ってしまいます。しかし、三途の川に流されたせいで、少女の体は、半分、脱げかかったままだったのです…。

 デロデロに脱げかかった体が、気持ち悪かったですね。犬木先生の画力が為せる業です。この作品を読んで以来、三途の川は「古い体が脱げる」というイメージで固定されました。『三途の川』は、単行本『私たちが震えた 少女ホラー漫画』(辰巳出版)に再掲されているそうなので、読みたい方はチェックを!

『首は笑う』松本洋子

 松本洋子先生といえば、『なかよし』ホラー漫画の代表格ともいえる存在。本誌で連載していた『闇は集う』は、ゾワッとするけどどこか切ない…そんな話が多かったように思います。しかし『恐怖の館』に収録された『首は笑う』は、ガッツリホラーでした。

 ピクニックに出かけた少女たち。しかし主人公の少女は、ワガママな性格で周りを困らせっぱなし。そのうち疲れたと言って、そばにあった石に腰掛けます。なんとそれは額にほくろのあるお地蔵様。しかも勢い余って首が落ちてしまったのです。

 みんなから直したほうがいいと言われるものの、主人公は突っぱねた挙げ句、お地蔵様を足で蹴る始末。

 ドン引きしているメンバーの態度に逆ギレした主人公は、ひとり別行動を取ります。慌てて追いかけるメンバーたちでしたが、一向に見当たりません。

 諦めかけたとき、突如主人公が現れます。でもどこか違和感。さっきまでさんざん文句を言っていたのに、「さっきはごめんね」と、打って変わってしおらしくなっているのです。彼女もついに改心したんだとメンバーはホッとしますが、主人公の額には、それまでなかったはずのほくろが…。

 少女たちは気づきませんでしたが、すぐそばには主人公が壊したお地蔵様が。しかしその首は、うつろな目をした主人公の生首に変わっていたのです。

 主人公とお地蔵様の首がすげ変わっていたという、ホラーです。少女漫画で生首が描かれることって、なかなかないですよね。そういう意味でもかなり衝撃的でした。

 ほかにも、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』をオマージュした『悪夢からの糸』(池ノ上たまこ)、キャンプ場を舞台にしたSFホラー『魔夏の森』(上野すばる)などの作品が、恐怖と共に脳に刻み込まれています。

 かつての「なかよしっ子」の皆さん、あなたの忘れられない作品はなんですか?

文=中村未来

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