混ざり合う感情が読む人の心を掴む“恩田陸さんの世界観”/山本千尋の読書日記②『木漏れ日に泳ぐ魚』

文芸・カルチャー

公開日:2022/8/19

山本千尋氏
映画『キングダム2 遥かなる大地へ』やNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演中の山本千尋さん

 私にとって読書とは、人生においてのガイドブックです。尊敬する先生方が本を通して教えて下さる言葉の数々と尊い世界を、このコラムを見て下さる皆様に少しでも興味を持って頂けるきっかけになれば嬉しいです。

②『木漏れ日に泳ぐ魚』 恩田陸

木漏れ日に泳ぐ魚
木漏れ日に泳ぐ魚』(恩田陸/文藝春秋)

 ホラー映画って私は自分からあまり選択して観れないのですが、同じタイプの人がいれば、怖いのにテレビでやってたらついつい観ちゃう…なんて事はありませんか? そして気付いたらエンドロール…。おや…? 最後まで観てるっ!? 私って意外とホラー映画好きなんじゃん! と強気になれる現象みたいな(笑)

 恩田陸さんの『木漏れ日に泳ぐ魚』を読み出した時、まさにその世界に引き摺り込まれた感じがしました。因みにホラー作品ではないです! ないはずです。人によってはホラーに感じる人もいるでしょうが。受け取り方は、人それぞれ自由です。この作品が素晴らしい事は確かなので。

 ストーリーを少しでも話してしまうと作品の楽しみを奪ってしまう内容なのであえて触れません。ただ言える事は、恩田陸さんの言葉から伝わる情景描写が美しくて切なくて、「私にもあったなぁ、あの時見たあの景色」と、鼻の奥がツンとするような感覚、登場人物の心情やその機微が丁寧に描かれている中で人間の欲望がヒシヒシと蠢く。混ざり合う感情が読む人の心を掴む恩田陸さんの世界観。是非読んで感じてみて下さい。私の場合、小説を読んでいると「これ映像化出来たら面白いなぁ、いや舞台で出来る!」とかを手に汗握りながら妄想しちゃうのですが…今回に関してはそんな事を考えている暇がないくらい一気に引き込まれてしまいました。読み終わった後、映像か舞台になったら出たいと思ったんですけどね。たくさん演じる事が夢なお仕事をしているのでお許し下さい。恩田さんも過去のインタビューでこう仰られていたんです。

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 ”好きな本があれば、それがまた別の本を連れてきてくれる。あるいは自分が好きな作家が薦めてくれる本を読むのもいいでしょう。私が子どもの頃は、筒井康隆さんや福島正実さんなど、SFを知り尽くしている方がブックガイド的な本をたくさん書いていました。それに載っている作品をほとんど読むことで目を見開かされた経験があるので、そうしたブックガイドがあることはいまでも大事だと思います。”

(幻冬舎ルネッサンス新社 特別連載インタビューより)

 たくさん本を読んで、たくさん作品に触れて、たくさん妄想して、たくさん言葉にしていきたいと心から思いました。最初は真似事でもいい。そしたらいつか作品がやって来てくれて自分のものになるかもしれない。いつでも「準備万端だよ!」と言えるようにブックガイドを豊富に作っておきたい。もしやって来てくれなくても、その時間は決して無駄ではない。実行した自分は必ず成長しているはずです。

 ミステリーと少女漫画が融合した夢のような時間を見させてくれる恩田陸さん。一度魔法にかけられてみるのも素敵だと思います。

<プロフィール>
山本千尋(やまもとちひろ)/1996年、兵庫県生まれ。中国武術、アクション、殺陣を特技とし、JOCジュニアオリンピックカップ武術太極拳大会では3種目、3連覇の優勝経験を持つ。2014年にヒロインを務めた映画『太秦ライムライト』では、第3回ジャパンアクションアワードのベストアクション女優賞を受賞。近年は、ドラマ『未来への10カウント』や『着飾る恋には理由があって』、『誰かが、見ている』、音楽劇『GREAT PRETENDER』、舞台『INSPIRE陰陽師』などに出演。

<告知情報>
2022年7月15日公開/映画『キングダム2 遥かなる大地へ』羌瘣の姉・羌象役として出演
三谷幸喜さん脚本/NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』善児に育てられた孤児・トウ役として出演

<第3回に続く>

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