希望を失ったステンドグラス作家の前にあらわれたのは、“生き別れた孫”!? 文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞作家の最新作『あかり』

マンガ

公開日:2022/8/4

あかり
あかり』(小日向まるこ/小学館クリエイティブ)

 柔らかくあたたかいタッチで描かれ紡がれる漫画『あかり』(小日向まるこ/小学館クリエイティブ)。物語は、老いたステンドグラス作家・篝(かがり)が妻を亡くし生きる意味を見失うところから始まる。直後に篝の前に現れたのが諸事情で生き別れた孫の「あかり」だった。篝はあかりのステンドグラス作りを指導しながら、心に再び生きるための灯りがともされていく。

 だが、あかりには大きな秘密があった。

 2021年、作者は『塀の中の美容室』(小日向まるこ漫画・桜井美奈原作/小学館)で第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞していて、本作は受賞後第一作となる。

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『塀の中の美容室』と『あかり』に共通しているのは、読み進めるにつれて、ゆっくりと心をこめて作画をして、登場人物の心情を丹念に漫画に映し出す作者の姿が浮かんでくることだ。心の中で、作者と読者はつながる。

ステンドグラスは
あかりをつけた時が一番きれいなんだ
見ていってくれないだろうか

 ある場面で篝はあかりにこう言う。そのとき、読者は、本書のタイトルがなぜ漢字の名前を持つ「あかり」を、あえてひらがなで書いているのかを知る。

 あかりの背景は、決して安穏としたものではない。篝に会う前、あかりは美大を目指して画廊に勤めていた。しかしオーナーが代わったことで画廊をクビになり、ひとり暮らしの家賃も払えなくなる。彼女にとって、篝とステンドグラス作りは人生でやっと見つけた「あかり」だったのだ。

 篝の家を出たあとも、あかりを待つ現実は厳しく、スムーズに物事は進まない。しかし終盤、あかりの心には再び希望がともった。あかりと異なる人生を送っていても、あかりの生きづらさは読者が感情移入できるものであり、だからこそ彼女の希望は読者に対する励ましのようにも受け止められるのではないだろうか。

 本作はモノクロのあたたかいタッチで描かれるが、あるページの見開きだけフルカラーになる。これはあかり、そして篝にとって何を意味しているのか、読んで考えてみてほしい。

 篝に、あかりに、そして読者に向ける作者のあたたかいまなざしが、いたるところで感じられる漫画だ。

文=若林理央

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