【坂口健太郎&杏主演でドラマ化】凸凹バディが市場を支配する巨悪に挑むエンターテインメントミステリー

文芸・カルチャー

更新日:2022/9/2

競争の番人
競争の番人』(新川帆立/講談社)

 坂口健太郎と杏がダブル主演する月9ドラマ『競争の番人』(フジテレビ系)に注目が集まっている。描かれるのは、公正取引委員会でのお仕事。公正取引委員会とは、独占禁止法に関わる違反行為を取り締まり、経済活動における公正で自由な競争原理を促進する行政機関だが、かろうじて名前は聞いたことがあっても、日々どんな仕事をしているかといえば、想像がつかない人が多いのではないだろうか。そんな機関にスポットライトを当てたこのドラマでは、叩き上げの女性審査官とキャリア組の男性審査官の凸凹バディが大活躍する。市場を支配する巨悪に挑んでいく姿にハラハラドキドキ。物語が進めば進むほど、ますます話題を呼ぶに違いない作品だ。

 そんなドラマの原作となったのは、『元彼の遺言状』(宝島社)で知られる新川帆立氏の同名小説『競争の番人』(講談社)。ドラマではこれから一体どんな展開が待ち受けているのか。この先の展開が気になるという人や、ドラマとの描かれかたの違いを楽しみたいという人は、原作小説も手にとってみるといいだろう。

 主人公は、弱小官庁・公正取引委員会審査局第六審査、通称「ダイロク」に所属する叩き上げの女性審査官・白熊楓。学生時代は空手部所属、弱くないのに万年2位。お人好しがすぎるのか、何だかいまいちツイていない残念女子だ。ある時、彼女の所属するチームに、東大トップ、留学帰りの超エリート・小勝負勉が配属されることに。考えるより先に動いてしまう白熊と、いつだって冷静で悪気なく正論ばかりを口にする小勝負。あまりにも対照的な2人がバディを組み、競争をせずに利益を得ようとする業者たちの実態に迫ることになる。

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 公正取引委員会の仕事は、デスクワークばかりではなく、警察のように実際に現場に出向くことが多い。たとえば、白熊と小勝負が最初に行うのは、S市のホテル三社のカルテルに関する調査。タレコミによればS市のホテル三社は毎年話し合ってウェディング費用の値上げ幅を決めており、それが原因でホテル利用者は不当に高い費用を払わされるらしい。調査対象の全事業所に立ち入って証拠品を押収する「立入調査」の前に、ホテル三社の密談の場を押さえようと、白熊たちはホテルの内偵を行う。小勝負の冷淡でデリカシーのない言動に傷付けられ、白熊は苛立ちさえ感じる。だが、トラブルに巻き込まれながらも、ともに調査を進めるうちに次第に2人の距離は縮まっていく。

 さらには、小説では白熊のプライベートについても描かれている。たとえば、母娘関係。ドラマでは白熊は職務中にミスを犯して公取委に異動となった元刑事という設定だが、小説の白熊は、父親と同じ警察官になることを目指していたものの、捜査中の父親の事故をきっかけに過保護な母親に説得されてその夢を諦めたという設定だ。警察官になれず、公取委の調査員としてもうまくいかない日々に複雑な思いを抱える白熊。さらには恋人・徹也との関係にも悩まされながら、白熊は目の前の仕事と向き合っていくのだ。

正しいことを貫くのは難しい。それでも、ヒーローはいる。正義は勝つ。

 お仕事小説としてはもちろんのこと、白熊と小勝負のバディものとしても、白熊の成長譚としても、この作品は面白い。白熊が悩みながらも、巨悪に挑んでいくさまは痛快。気づけば、白熊の戦いから目が離せなくなり、読後は心の中を爽やかな風が吹き抜けていく。ドラマとあわせて小説を読めば、楽しさは倍増。ドラマのファンも、まだドラマは見ていないという人も、これからますます話題になるに違いないこの作品を、小説でもぜひとも体感してみてほしい。

文=アサトーミナミ

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