「モアイ像が歩いてる!?」父とともに世界中のミステリースポットを旅する少年が活躍する、“ソフトオカルト”児童書シリーズ

文芸・カルチャー

公開日:2022/8/10

セカイの千怪奇1 幽霊屋敷レイナムホール
セカイの千怪奇1 幽霊屋敷レイナムホール』(木滝りま、太田守信:作、先崎真琴:絵/岩崎書店)

〈世界は、千々の怪奇にあふれ、科学では説明できない現象がおきている。その真実を、人類は未だ知り得ない。〉――と、冒頭に記された『セカイの千怪奇1 幽霊屋敷レイナムホール』(木滝りま、太田守信:作、先崎真琴:絵/岩崎書店)。5歳のころ、不思議な光に包まれて消えてしまった母の行方を追う中学1年生の少年・未知人が、考古学の教授からオカルト系動画配信者に転身した父・豪とともに、世界中のミステリースポットをめぐる物語。

セカイの千怪奇1 幽霊屋敷レイナムホール p.124~125

 豪の目的ももちろん妻である未知人の母を探すことなのだが、ダジャレを連発しながら、科学では解き明かせない不可思議な現象を現地調査する彼は、それが天職であったかのように生き生きしているし、未知人もどこか怪奇そのものに魅了されているような雰囲気がある。そんな2人と一緒に本の中で世界中を旅するうち、私たちの好奇心もうずうずと刺激されてくるのが本書の魅力だ。

 たとえば第1話で未知人たちが向かったのは、モアイ像が歩くのを見たという人が続出しているイースター島。実際、未知人たちもモアイ像が歩く姿を目撃してしまう。いったいどうやって!? というのが本筋の謎だが、そもそも、石器しかもたない時代、イースター島に住む長耳族(ちょうじぞく)がとほうもない労力をかけて作り上げたといわれるモアイ像には、謎が多い。

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セカイの千怪奇1 幽霊屋敷レイナムホール p.24~25

 およそ50トンもある石像が、何キロも離れた祭壇まで運ばれているのだが、その方法も不明。……というのは、なんとなく聞いたことのある読者もいるだろうが、その後、支配階級の長耳族を滅ぼした労働階級の短耳族(たんじぞく)がモアイ像を倒しまくる“モアイたおし戦争”が起きていたとか、1866年ごろまでは食人文化があったといわれているとか、本題の謎とは一見関係なさそうな雑学がちりばめられているのも、おもしろい。考古学者としての知識に裏付けされた豪の動画――「セカイの千怪奇ちゃんねる」の登録者数が700万人もいるというのも、うなずける。

 タイトルにあるレイナムホールは、第2話に登場する世界最恐と名高いイギリスの幽霊屋敷なのだが、ここでも未知人たちは実際に女性の幽霊とおぼしき影を目撃。さらに、とんでもない事件に巻き込まれてしまう――。他にも、日本で800年生きたとされる八百比丘尼(はっぴゃくびくに)の人魚伝説、カリブ海に浮かぶ島プエルトリコに出現する吸血動物チュパカブラ、そしてルーマニアにある呪いの森ホィア・バキュー・フォレストと、世界各地のミステリーと雑学が本書にはぎっしり詰まっている。

セカイの千怪奇1 幽霊屋敷レイナムホール p.70~71

 おもしろいのは、毎回、謎のすべてが解決するわけじゃないというところ。作中で「UMA(未確認生物)のうわさや目撃情報が、人間の想像しやすいリアリティに寄っていくと、どんなことがおこるんだろう」と疑問を抱いた未知人に豪が「人間の立場からしたら、安心できるからうれしい。UMAの立場からは、自分たちの正体を人間の目から遠ざけられる」と答える場面がある。何もかも自分たちの知識で解釈できると思い込むことの危険性も、本書ではさりげなく描かれる。

 理屈だけでは理解できない、解決できないことに溢れているから、この世界はおもしろい。怪奇現象に出会うたび、少しずつ近づいていく母親失踪の謎、という大きな物語はもちろんなのだが、まずは未知人たちとともに旅をして、心の奥底に眠る好奇心を存分に掘り起こしてほしい。

文=立花もも

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