『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』のスピンオフ!本編で描かれなかった戦争の時代に生きた人々の日常

マンガ

更新日:2022/8/15

ペリリュー
ペリリュー―外伝―』(武田一義、原案協力・平塚柾緒[太平洋戦争研究会]/白泉社)

 太平洋戦争の激戦「ペリリューの戦い」の史実をもとにしたフィクションとして描かれた漫画『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』(武田一義、原案協力・平塚柾緒[太平洋戦争研究会]/白泉社)。三頭身の可愛らしいキャラクターでありながら、苛烈な戦場をリアルに描いて話題となり、昨年全11巻で完結した。その後、本編で描かれなかった出来事が漫画誌『ヤングアニマル』に掲載され、このたび『ペリリュー―外伝―』として一冊にまとめられた。収録されているのは「片倉分隊の吉敷」「Dデイ(攻撃開始日)」「田丸と光子」「ペリリュー島のマリヤ」という4つのストーリー、そして巻末に作家石井光太による作品解説が収められている。

「片倉分隊の吉敷」はペリリューの戦いの開戦から1ヶ月、友人で主人公の田丸均一等兵と別れ、片倉憲伸兵長率いる分隊に所属し、日本軍で不足する水や食料、武器弾薬などの物資を調達(というと聞こえはいいが、死んだ者たちから使えるものをくすねたり、アメリカ兵を襲撃、皆殺しにして物資を掠奪したり)する危険な任務に就いた吉敷佳助上等兵が主人公の物語だ。吉敷上等兵は初年兵だが、訓練で優秀だったため上等兵となった21歳。射撃や戦闘に関して自分に能力があることを彼は淡々と受け入れているが、根が正直で優しいため戦闘には消極的であり、自らのポリシーに反することは上官の命令でも背いてしまうタイプで、本作では片倉兵長の命令を守らず、制裁を加えられている。

 戦場は暴力的で、不快で、凄惨で、理不尽で、平和な現代の視点から見ると1秒たりともいたくないところだ。しかし太平洋戦争は明治~大正~昭和初期の時代に生まれた人たちにとっては逃れられない運命であり、端から個人に選択の余地がなかったという不幸である。そんな時代や場所で自我を保つには、思考することをやめ、大きな流れに自らを順化させてしまうことが一番楽だ。しかしそれを良しとしない吉敷の生き方の不器用さ――もし彼が現代に生きていたら、どんな人生だったのかと思う。

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 またアメリカ兵の視点からペリリュー島上陸作戦を描く「Dデイ(攻撃開始日)」も、もともとペリリュー島に住んでいた人たちが巻き込まれる「ペリリュー島のマリヤ」も、戦争がなければ失われることのなかった命や愛が描かれる。戦争は多くの人の人生を歪め、命を奪い、たくさんの大事なものを破壊し尽くす。だからこそ、戦争を生き抜いた田丸が帰国して吉敷の妹と出会い、結婚するまでを描く「田丸と光子」の物語の温かさが救いとなるのだ。

 戦争にまつわる物語を読むことはとてもつらい。なぜわざわざそんな物語を読むのか? もしそう問われたら、ロシアのウクライナ侵攻があり、日本の周りで緊張が高まっている今、戦争は決して昔の話、遠い場所での出来事ではないから、と答えたい。人はいつでも過去の出来事、愚かな過ちに学ぶことができる。どこで選択を間違えたのか、退路はどこで断たれたのか、国民は為政者にどう欺かれたのか、いったん戦争が始まってしまうとどんなことが起こるのか、そして大切な人を失った戦後の悲惨さはいかばかりか……戦争での不条理なことは、いつも普通に生きている人たちに起こる。それをしっかり心に刻んでおきたい。

 現在も外伝は描かれ続けており、2023年7月には第2巻が出る予定だという。アニメ化も決定している『ペリリュー』の本編と外伝、この機会にぜひご一読を。

文=成田全(ナリタタモツ)

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