記憶を探して成仏させたい!? 憑かれ体質のぼっち女子×超生意気な幽霊男子の、記憶探しの物語

文芸・カルチャー

公開日:2022/8/27

とっとと成仏してください!(1)
とっとと成仏してください!(1)憑かれて疲れてもう、サイアク!?』(花千世子:著、海ばたり:イラスト/ポプラ社)

 世の中には、まだまだ科学で解明されていない不思議な事象が数多く存在する。中でも「心霊現象」の類は、身近で気になる不思議の1つだ。とは言っても筆者には霊感がないため直接幽霊に出くわしたことはないのだが、しかし何らかのそうした現象を体験している人は案外多い。

とっとと成仏してください!(1)憑かれて疲れてもう、サイアク!?』(花千世子:著、海ばたり:イラスト/ポプラ社)の主人公・天国玲香(あまくにれいか)もまた、そんな特別な、しかもちょっと変わった力を持ってしまった女子中学生の1人だ。本作品は、エブリスタ小説大賞2021とのコラボ企画として開催された「第1回ポプラキミノベル小説大賞」のファンタジー・ミステリー部門大賞受賞作。

 玲香は、飼い猫のツナとマヨを愛する中学1年生の女の子。両親は海外に長期出張中で、現在はこの飼い猫ツナマヨとともに暮らしている。そんな玲香には、あまり人には言えない秘密があった。それは、霊感はないのに憑かれ体質であるということ。成仏できずに現世を彷徨っている幽霊が、なぜかいつも玲香に憑いてしまうのだ。憑かれると体がずっしり重くなり、異様におなかが空いて、ツナマヨにも避けられてしまう。そのため、憑かれたら早急に対処して成仏させてきたのだが。

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 ある日、激マズ弁当女子幽霊の「彼氏だった田中くんに、もう一度だけお弁当を食べさせたい」という願いを叶えて成仏させた玲香。これでようやくツナマヨをモフれる――と思っていたのだが、そんな期待も虚しく立て続けに別の幽霊に憑かれてしまう。しかも今度は男の子。玲香は憑いた幽霊と感覚を共有してしまうため、男の子の幽霊だと着替えやお風呂、トイレなど難関だらけ。しかもこの幽霊、超生意気なうえことあるごとに玲香をからかってくる。一刻も早く成仏させて平穏な日常を取り戻したい。なのに「家族にお別れを言いたいんだ」と言いながら「おれ、記憶がない」なんて言ってきて――。

 ここから玲香は、この幽霊に“名なしの権兵衛”からとって「ごんべえ」と名付け、彼とともに記憶を取り戻すため奔走する。近所で一番大きな公園「タコ公園」へ行ってブランコに乗り、音楽室で幽霊が出るとの噂があれば体を乗っ取られて強制連行され、旧校舎の男子トイレに噂が立てば、その様子も見にも行った。しかし幼い頃にある出来事があって以降“ぼっち”だった玲香は、ごんべえと行動をともにするにつれ心境に変化が現れ始める。

 幽霊とはいえ、憑かれている間は相手と四六時中一緒にいることになる。しかもごんべえの記憶がないことで記憶の手がかりを探す必要があり、彼のことを少しでも知ろうと必死だ。玲香は次第に、ごんべえに成仏してほしくない、と思い始める。幽霊としてそこにいる以上、ごんべえは既に死んでいるはず。だから成仏させなければならない。頭では分かっているが、心がそれを拒絶し、逃げてしまうのだ。後半はそんな玲香とごんべえの近くて遠い距離が切なくて、ページを進めるごとに涙が溢れてくる。

 また、ごんべえの記憶探しをしていく中で、ギャルなクラスメイト・神田川アリスとも話すようになり、そのやり取りも描かれる。実はアリスもまた、人に言えない秘密を抱えていた。玲香とごんべえとの出会いはただの偶然だったが、この出会いが玲香やアリスを大きく成長させていく。

 そしてラストには、「あーもうなんだこれええええ!(喜)」と思わず叫びそうになる意外な展開も待ち受けている。『とっとと成仏してください!(1)憑かれて疲れてもう、サイアク!?』を読んで、玲香とごんべえの終着地を、そして玲香とアリスに芽生えた絆を、ぜひ自身の目で見届けてほしい。

文=月乃雫

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