40万部突破「泣くな研修医」シリーズ著者の最新作! 互いを相棒として認め合う、医師歴15年目の2人の外科医。待ち受ける医師人生最大の危機は

文芸・カルチャー

公開日:2022/8/31

俺たちは神じゃない―麻布中央病院外科―
俺たちは神じゃない―麻布中央病院外科―』(中山祐次郎/新潮社)

 看護師として働いていたころ、「仕事では『つうかあの仲』、プライベートはそこそこの距離が保てる、そんな相棒がいたらな……」と、出来過ぎた理想を抱いていたことがある。そんなヤツがいれば、きっと仕事がうまくいかない日があっても「また頑張ろうぜ」なんてくさいセリフを吐きながら、グータッチなんかして乗り越えられたかもしれない。もちろん、そんな人と出会う確率なんて奇跡に等しいが……。

 だからこそ『俺たちは神じゃない―麻布中央病院外科―』(中山祐次郎/新潮社)に登場する2人の医師・剣崎と松島の関係には、強い憧れを抱いてしまう。本書は、医師歴15年目、業界では「中堅」ポジションの外科医2人の強い絆が描かれた作品だ。著者は「泣くな研修医」シリーズを手掛け、現役外科医でもある中山祐次郎さんである。

 本書にはまず、中堅というポジションの医師の大変さが全般を通して描かれている。新人や若手のように、自分のことだけ考えるわけにはいかない。上司から部下の指導責任を問われながらも根気強く育て、かつ自分もそれ以上に成長する必要がある。剣崎と松島は、まさにそのポジションの中心なのだ。

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 また医療技術の面でも、彼らは成長を強いられる。作中では、助かる見込みが低い上に身寄りのない高齢患者の治療方針について頭を悩ませたり、医局長から非常に難易度の高い術式を任され、プレッシャーに押しつぶされそうになる。ストレスが溜まらないわけがない。

 さらに追い打ちをかけるように彼らを悩ませたのが、同僚の事故だ。15年間も医師としての人生に身を捧げてきたにもかかわらず、ひとたび大きな事故に巻き込まれたら、外科医としてのキャリアは一瞬で潰えてしまう。そんな現状を目の当たりにした2人は、自分の人生についても考えさせられるのだ。

 その道に15年もいれば、スッと着地点が見えてきそうだが、どれも明確な着地点はない。それくらい医師の仕事は先が見えにくいということなのだろう。それでも彼らは、15年目の外科医である自分を信じて、進み続けるしかないのだ。

 そんな2人の心労を癒し、仕事のパートナーとして絆を深めていく場所。それは職場近くに佇む小さなバーだ。本書の舞台はもちろん病院だが、バーで剣崎と松島が酒を飲みながら語らうシーンも数多く描かれている。緊迫し、ピリッとするシーンが多い病院とは対照的に、冗談や笑い声が飛び交い、思いもよらない言葉まで吐露されるバーでのひと時。そんな対比にも注目しながら、読み進めてみるのも面白いだろう。

 物語終盤では、剣崎と松島に大きな試練が訪れる。医療従事者はもちろん、そうでない人も2人に訪れる史上最大の試練にリアルな緊張感を覚えるはずだ。2人は試練を乗り越えられるのか? ぜひ本書を最後まで読んで確認していただきたい。

文=トヤカン

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