季節は夏。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』暁佳奈の人気シリーズ最新刊は、四季を司る現人神たちの恋と闘争の物語

文芸・カルチャー

公開日:2022/9/9

春夏秋冬代行者 夏の舞
春夏秋冬代行者 夏の舞 (上)』(暁佳奈/電撃文庫/KADOKAWA)

 燦々と照りつける太陽。晴れわたった青空。遠くの山々は深緑に覆われ、野に広がるひまわり畑。近郷近在からは蝉の大合唱、夕暮れには祭り囃子が響き、浴衣姿の恋人たちが夜空に散る花火を眺める。夏は生きとし生けるものすべてが生命力に満ち溢れ、生きる喜びを謳歌する季節だ。

 そんな真夏の情景が心をよぎる恋と闘争の物語、『春夏秋冬代行者 夏の舞 (上・下)』(暁佳奈/電撃文庫/KADOKAWA)が先日発売された。本作はアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の原作者・暁佳奈氏が手がけるオリジナル小説シリーズ。極東の島国・大和を舞台に、四季の神々に代わって春夏秋冬を顕現する「四季の代行者」を取り巻く人々の群像劇となっている。

 昨年、出版された第1巻『春の舞 (上・下)』は、春の代行者の帰還を発端とした過激派集団によるテロ事件が勃発し、困難を乗り越えていく春夏秋冬の代行者と護衛官たちの強い絆が大きな感動をもたらした。

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 そして今回の物語の中心となるのが、史上初の双子神となった夏の代行者・葉桜瑠璃と葉桜あやめだ。見た目はうりふたつの清楚な黒髪の大和撫子といった美少女だが、自由奔放な妹と生真面目な姉という両極端な性格の双子の姉妹である。

 さらに四季の代行者と同様の現人神、朝と夜を司る「巫の射手」が新たに登場する。暁の射手と黄昏の射手の2人の現人神が空の天蓋を撃ち落とすことで朝と夜が訪れるという、摩訶不思議な世界観に引き込まれる。

 物語の季節は春から夏へと巡り、代行者はそれぞれの平穏を取り戻していた。しかし、その裏では四季の里で権力をにぎる保守派と、古い因習からの開放を望む改革派の対立が進行していた。

 ある日、大和の南端・竜宮に住む黄昏の射手が巨大な狼【暗狼】に襲われるという謎の事件が起きる。春のテロ騒動の責任を追求される保守派は非難の矛先をかわすため、暗狼の出現は当代の現人神たちの行動に遺憾の意を示した神からの天罰だという根拠のない濡れ衣を着せる。

 不当な処罰により決まっていた婚約を破棄されてしまった葉桜姉妹は、名誉挽回のために夏の里を抜け出し【暗狼】事件を解決すべく動きだす。幼くして夏の代行者という重責を背負わされ自由を奪われた妹の瑠璃。大切な妹を孤独にさせないために護衛官となって支え続けた姉あやめ。お互いに唯一無二の存在と思いながらも代行者として、護衛官として、心の奥底で抑圧していた愛憎が渦巻く様がやるせない。

 一方、瑠璃の婚約者であった護衛官候補・君影雷鳥と、あやめの婚約者であった青年医師・老鶯連理も立ち上がる。最初は己に課せられた役目や家から自由になるための契約上の結婚だったが、男たちは必死に運命に抗う姉妹に本気で惹かれるようになっていた。愛する婚約者を取り戻すため、2人の後を追いかける男たちの姿が勇ましいのだ。

 瑠璃と雷鳥、あやめと連理、不条理に翻弄される2組の男女の想いが熱く、激しく、ほとばしる。真夏の太陽のような情熱と、澄み切った青空のような純愛の物語。ぜひ手にとって読んで、この夏の思い出に残してほしい1作です。

文=愛咲優詩

『春夏秋冬代行者 夏の舞』詳細ページ
https://dengekibunko.jp/special/syunkasyuutou/

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