死と向き合い続けてきた“火葬技師”の体験談とメッセージが満載!『火葬場奇談 1万人の遺体を見送った男が語る焼き場の裏側』

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公開日:2022/9/9

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火葬場奇談 1万人の遺体を見送った男が語る焼き場の裏側』(下駄華緒/竹書房)

 火葬場に勤めていた一級火葬技師かつ元葬儀屋職員で、現在は7万人もの登録者を抱えるYouTubeチャンネルを運営する下駄華緒氏。そんな彼の著書『火葬場奇談 1万人の遺体を見送った男が語る焼き場の裏側』(下駄華緒/竹書房)が発売された。

 日本は99%の火葬率を誇っている国だ。つまり火葬場とは、ほぼ全国民に関係する施設。いつかは誰もがその場に立つことになるのだ。

 そんな大切な場所なのにどういうところか、何が行われているのか、どんな人が働いているか、多くの人が知らない。ただ火葬場は隠されていた場所ではなく、単に私たちが非日常として遠巻きに見ていた場所なのだが。

 本書は火葬場“奇談”と銘打たれているが、内容はセンセーショナルな内容やゴシップの類ではない。書かれているのは、著者が粛々と死者と遺族と向きあってきた、火葬場の“日常の記録”。そして自らの経験や“現場”で聞いた生々しい話、火葬場について知ってほしいことだ。ただそれは、日本に住む私たちにとっては興味深い、そして知っておいて損はない話である。

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噂、事件簿、裏側……興味深い火葬場奇談

 では本書の内容を一部紹介していく。第1章ではあなたも一度は聞いたことがあるかもしれない都市伝説のような「火葬場の噂」を紹介していく。「遺体が動く」とは? 黒く焼け残ったのが生前悪かった部分なのか? この辺りを丁寧に解説してくれている。なかでも「必要なイメージ」で語られることが多い火葬場へのチップについては、明快に答えてくれているので、読んでみてほしい。

 第2章「実録火葬場事件簿」では火葬場での過去の事例を紹介。これらの多くは“事件”として実際に起きたもので、興味深いながらも火葬場の負のイメージだったりおどろおどろしいイメージを形作っていたりする種のようなものかもしれない。

 第3章「火葬・葬儀の裏側」では、知っておいたほうがいい火葬時の豆知識が得られる。一番お骨がきれいに残る副葬品(棺に入れる故人の思い出の品)、喪服の注意点、目張りされた棺の意味などは私たちが遺族になったとき、火葬時の立ち居振る舞いにかかわってくる重要な情報となるだろう。

 第4章「火葬技師の証言」では、思った以上に過酷な“火葬場の仕事”を知ることができる。火葬中の遺体のチェックは非常に重要なタスクだ。スケジュールがタイトな火葬場では、時間内に“しっかりと”お骨にしなければならない。ただ火葬時に肉体が破裂し、確認用の小窓に目掛けて破片が飛び散って来ることもあるのだ。

 また火葬に使う炉の清掃。この作業はかなりの重労働だという。しかも当然火は止めているものの内部は熱を帯びた状態であり、さらに力がかなり必要。下駄氏はそんな清掃時、重たい炉の扉が外側から閉められるというゾッとする経験をしている。後輩が不注意でボタンを押してしまったそうで、このときはすぐに気が付かれて事なきを得たが、出入りするタイミングに扉が下りていたら……。そして扉が下りてあと2動作で炎が噴き出すところだった……という状況は読んでいて背筋が冷たくなった。

 各章の最後には「世界の火葬」や下駄氏が自分の祖母を火葬したときの経験を書いたコラムがあり、氏のインタビューとともに読みごたえは抜群だ。

最後だからこそ必要な「信頼」

 読んでいて私はいくつかの火葬場での記憶を思い出した。この10年で父を含む複数人の火葬に立ち会ったが、印象深いのは火葬技師さんの話しぶり、立ち居振る舞いだ。静かできれいな火葬場で、独特の雰囲気があるなか、どの火葬技師さんも品があり落ち着いていた。私たちも安心してお骨あげまで行えたように思う。本書には火葬技師としての著者の心得が数多く書かれており、そのマインドはどれも、なるほどと合点がいくものだった。

 たとえば、“ご遺体は「運ぶ」ではなく「連れていく」”と言う。言葉の力は凄まじく、言葉のつかい方によっては、それが行動に表れることがある。言葉づかいが葬祭業で働く方々自身の意識を高く保つ。また遺族さんに寄り添い、けして“葬祭業務を「流れ作業」のようにしない”というものだ。

 このような火葬場のお仕事への思いは、いくつもちりばめられているので、ぜひ読んで確かめてもらいたい。

 繰り返しになるが、本書に書かれている内容の多く、火葬場での出来事を知ることは、私たちにとって有益だ。火葬場は自分の大切な方を送り出す場所であり、最終的には自分も送られる場所でもあるのだ。

 本書で火葬場と火葬について知ってほしい。それは間違いなく、あなたに関係してくることなのだから。

文=古林恭

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