“なりたい自分になるために”――「だから私はメイクする」第2巻は、私たちの背中を強く押してくれる1冊

マンガ

公開日:2022/9/11

だから私はメイクする
だから私はメイクする』2巻(劇団雌猫:原案、シバタヒカリ:漫画/祥伝社、全2巻)

 女性にとって、ある程度の年齢になると毎朝必須に近い習慣になるのがメイク。私自身「綺麗になりたい」という気持ちはあっても、やり方もよくわからないし、「私なんかが化粧したってたかが知れてる……」という思いもあり、結局毎朝なんとなく塗るだけ(そして夕方には剥げている)の毎日を過ごしてきました。しかしそんな私に「メイクはなりたい自分になるためのもの」であり、「自分の人生を輝かせるもの」だと教えてくれたのが『だから私はメイクする』2巻(劇団雌猫:原案、シバタヒカリ:漫画/祥伝社、全2巻)です。

 1巻では敏腕美容部員・熊谷さんを中心に、メイクやネイルを楽しみ、自分の人生を輝かせる人々のパワフルな輝きがオムニバス形式で描かれました。1巻で完結予定だった本作ですが、反響が高かったため続刊の発売が決定したそう。2巻ではテーマをメイクからロリータファッション・ボディメイクなどにまで広げ、さまざまな女性たちの生きざまを描きます。

 そんな本作の魅力は何といっても、こちらまでエンパワーメントされる女性たちのパワー。どの主人公もなりたい自分がわからなくなったり、なりたい自分があるのに世間の目が邪魔をしてきたりと、戸惑い悩みます。それはもはや装いだけの問題ではなく、自分の将来像が描けない、周囲から向けられる視線を必要以上に気にして臆してしまう、そんな人生そのものの悩みとも言えます。本書の主人公たちはその戸惑いを、“自分で自分を愛せる装い”を身に着けることで自信をつけて払拭し、前に進んでいきます。そんな誰の手にも頼らず、自分で自分の人生を切り開いていく姿が眩しいのです。お気に入りのものを身に着けているから、持っているから、自分の体形を理想の形にすべく努力しているから。そんな自己完結型のモチベーションで自分に勇気を与えている主人公たちが素敵です。

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 一方でこの作品は“男受け”や“他者からの評価”をモチベーションにする人たちを一切否定しないのもいいところ。例えば2巻の1話(Chapter.7)で推し活仲間と楽しく語り合っているときに合コン帰りの女性たちと遭遇した主人公が、「モテを気にする苦行から解放されて」こっちの世界の方が楽しい、と語る友人に対し「『男ウケ』大いにいいじゃない! ウチらとモチベが違うそれだけよ!」と返すシーンがあります。人生を前向きに楽しむためのどんな趣味やモチベーションも否定しない、そしてそれらを他人が評価することの愚かさが随所に描かれているところに、ハッとさせられます。

 また2巻では、自分の装いを前向きに楽しむ主人公だけでなく、他者からの容姿の評価に縛られ、自分自身を見失ってしまう女性も登場。学生時代から“可愛い子”と評価され、その扱いに縛られてきた主人公は「わたしは幸せな方だと思う。だって本当にひどい言葉や扱いを受けたことはない」と言いますが、そんな彼女に友人は「容姿に関する幸や不幸は誰かと比較するものじゃない!」と言い切ります。近年“ルッキズム”という言葉も注目されていますが、人生の中で一度も自分の外見を他人から評価されたことがない、という人は恐らくいないでしょう。そしてその問題点は、容姿を否定されることだけではなく、「容姿が良いからと持ち上げられる窮屈さ」や、「容姿をもとに気軽に相手を『◯◯っぽい』とカテゴライズする言葉も含まれる」のだとこのエピソードを読んで改めて感じました。

 他者からの評価の道具になりがちな装いを、自分主体で決めた、自分自身の生きざまを貫く勇気をもつためのものにしてほしい。本書からはそんなアツいメッセージを感じます。

文=原智香

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